臨床心理士のための 精神科領域における心理臨床

臨床心理士のための
精神科領域における心理臨床

一般社団法人 日本臨床心理士会 監修
同 第1期医療保健領域委員会 編
津川律子 責任編集

定価3,000円(+税)、216頁、A5判、並製
C3011 ISBN978-4-904536-45-2

本書は,日本臨床心理士会第1期医療保健領域委員会(津川委員長)が行った全国規模の大型研修会等のアーカイブから,精神科領域に関する議論をピックアップしたものです。
個人心理面接だけでなく,デイケアや地域支援,クリニック業務など,拡大する心理の仕事とそのポイントを実務レベルで描きました。
初学者だけでなく中堅~ベテランの方にも読んでもらいたい1冊です。

姉妹編:臨床心理士のための医療保健領域における心理臨床も好評発売中

本書の詳しい内容


おもな目次

第1章 自殺予防活動における臨床心理士
紹介とまとめ 自殺予防活動における臨床心理士──生活者としてできること,対人援助職としてできること ■ 津川律子
(1)厚生労働省における自殺対策の現状について ■ 荒川亮介
(2)自殺のない「生き心地のよい社会」をめざして ■ 清水康之
(3)全体会「自殺予防活動における臨床心理士」を拝聴して ■ 村瀬嘉代子

第2章 精神科領域における臨床心理士の現状と課題
紹介とまとめ 精神科領域における臨床心理士の現状と課題 ■ 津川律子
(1)精神科診療所の立場から ■ 原田 徹
(2)精神科単科病院の立場から ■ 淵上奈緒子
(3)総合病院の立場から ■ 花村温子

第3章 精神科デイケア ■ 吉村理穂

第4章 精神障害者の地域生活支援
紹介とまとめ 精神障害者の地域生活支援 ■ 原田 徹
(1)病院での生活から地域での生活へ──精神障害者退院促進支援事業に携わって ■ 須藤志保
(2)“アクティングアウト”のすすめ ■ 高木俊介
(3)退院支援SST“動機づけ”からの取り組み ■ 福田由利

第5章 地域社会とひきこもり支援
紹介とまとめ 地域社会とひきこもり支援 ■ 江口昌克
(1)ひきこもりの臨床心理的地域援助 ■ 境 泉洋
(2)青年期ひきこもりケースのアセスメントと治療・援助──心理専門職に期待すること ■ 近藤直司
(3)「生きていく気」と「生きていく場」のために ■ 荻野達史

第6章 精神保健領域における臨床心理士の活動
(1)多職種との協働における県民の精神保健普及啓発活動 ■ 山下弥生
(2)福井県臨床心理士会による福井県内の自殺対策の取り組み─―特に,こころの健康  夜間・休日相談会について ■ 小林仁志


ご挨拶

日本臨床心理士会の研修会に出席する度に,「この内容を出席した人々だけの財産に留めず,多くの人が享受する便宜が図られればよいのだけれど……」と思うことしばしばであった。もちろん,これまでも研修資料が販売されたり,『日本臨床心理士会雑誌』に受講者の感想などが報告されてきた。だが,全国規模の医 療保健領域における大型研修終了後,その内容をこのように纏められたものは数多ある臨床心理学の専門書の中にも類書はなく,まことに貴重な書物である。
本書の特色の第1として,内容は幅広い医療領域をカヴァーし,真摯で地道な実践をもとに今日までの医療の諸領域における心理臨床実践の足跡と現状が分かり やすく記述されていることが挙げられる。第2の特色として,現在,わが国の医療はさまざまな意味で大きな転換期に遭遇しているが,そのような状況の中で,各領域の今後の課題を的確に把握し,それへの対応と臨床心理士は将来に向かって,どのように質を高め進んでいったらよいかについて具体的な示唆と展望が示 されている。
このように意義ある書物の刊行を企画し,編集された医療保健領域委員会の皆様と,急激な時代の転換の中で,次々に生じるさまざまな医療保健領域の課題に,平素から精力的に迅速に対応され,本書の責任編集の労もとられた医療保健領域担当の津川律子副会長に深謝したい。
本書は医療保健領域に留まらず,今日これからの心理臨床を考える上で非常に役立つものであると思う。多くの方々にぜひお読み戴きたいと願う。

平成24年立秋の日に

一般社団法人 日本臨床心理士会会長
村瀬嘉代子


本書刊行にあたって

本書の企画意図は,姉妹編である『臨床心理士のための医療保健領域における心理臨床』の「序論」のなかで詳しく述べているが,本書のみごらんになる読者のために本シリーズの企画意図を述べたい。
2009(平成21)年4月1日に日本臨床心理士会は一般社団法人となり(2007年9月26日より村瀬嘉代子第二代会長),同時に法人として第1期の医 療保健領域委員会の活動が始まった。この第1期医療保健領域委員会は,任期の間(~2011年7月30日)に,全国規模の大型研修会を2回,各都道府県臨 床心理士会の担当者会議を1回,初めてとなる各都道府県臨床心理士会の担当者「研修会」を1回,企画・実施した。また,これとは別に臨床心理センターの講 座に関する企画も1つ実現した。計5つの会に登壇した講師数は多く,テーマも多彩であり,会員アンケートで,これらをまとめて書籍もしくは冊子として残してほしいという希望が多数あった。
特定の学派における技法論ではなく,医療保健領域における臨床心理士の実務を,修了後研修を意図してまとめた書籍は,大袈裟にいえば日本の臨床心理学史 上,まだ見うけない。そこで,本書の出版を第1期医療保健領域委員会で企画し,日本臨床心理士会常任理事会に諮ったのが2010年12月26日のことである。その後,2011年2月11日の理事会で出版計画を報告し,同年5月8日の理事会で最終企画案が承認された。
さて,本書の企画意図は次のとおりである。1)現在,医療保健領域で勤務している臨床心理士(とくに若手)の修了後研修の素材として役立つように,2)医療保健領域に勤務していない臨床心理士たちにとって,いま何が医療保健領域でテーマになっているのかを含めて学習素材となるように,3)この時代を記録す ることで,医療保健領域に勤務する未来の臨床心理職に役立つように,4)チーム医療関係者のみならず,一般の方々に臨床心理士の仕事の一端をご理解いただ く参考として,出版を企画した。内容量が多いため,2冊の姉妹編『臨床心理士のための医療保健領域における心理臨床』および『臨床心理士のための精神科領 域における心理臨床』とした。本書はこの『臨床心理士のための精神科領域における心理臨床』である。

本書の刊行に際して中心的な役割をもったのは,一般社団法人日本臨床心理士会第1期医療保健領域委員会のメンバー(浦田英範,江口昌克,小池眞規 子,花村温子,原田徹,東山ふき子,福田由利,矢永由里子/敬称略)であり,任期中の多大な活動に委員長として感謝申し上げたい。また,当委員会のこのよ うな活動は多くの委員会,理事会,常任理事会,そして何よりも会員の支えによっていることに御礼申し上げる。さらに,日本臨床心理士会を応援してくださっ ている,多くの対人援助職の方々にも日頃の御礼を申し上げたい。
さて,財団法人日本臨床心理士資格認定協会が設立し,「臨床心理士」(certified clinical psychologist)の資格認定がスタートしたのは1988(昭和63)年のことであった。第1回 臨床心理士資格審査委員会は同年9月1日に組織され,初代委員長は佐治守夫先生(1924~1996)であった。成瀬悟策先生が臨床心理士第1号(臨床心 理士番号No.1)として認定された。それ以来,多くの臨床心理士を生み出し,臨床心理士を日本の社会のなかで位置づけ,発展させてきた多くの先達に感謝 と尊敬の念を表したい。
また,臨床心理士の職能団体である日本臨床心理士会は1989(平成元)年11月1日に発足した。その初代会長であり,日本において臨床心理学の地位を確 立した先駆者のひとりである河合隼雄先生(1928~2007)には,臨床心理学に基づいた生活者の心理支援を,全国各地で今日も私たちは頑張って実践し ているという事実をぜひともお伝えしたい。

2012(平成24)年7月19日(河合隼雄先生のご命日に)
一般社団法人  日本臨床心理士会  第1期医療保健領域委員会委員長
津川律子


終わりに寄せて

今回,私は,日本臨床心理士会第1期の医療保健委員会の担当理事として,医療保健委員会に参加させて頂いた。委員構成は,精神科領域,総合病院での臨床心 理士,HIV領域での臨床心理士,小児科,保健領域などさまざまな分野の委員から成り立っていた。委員会活動は,研修会の計画立案だけではなく,職能団体 としても活動を行っていた。
私事になるが,私は,大学の教員になるまでの20年間,単科の精神科で臨床心理士として働いていた。その間,総合病院の小児科,スクールカウンセラーとし ても働いた経験があった。それらの経験から学んだことは,チーム医療の大切さと他職種とのコラボレーションであった。大学院時代の私は,精神科医療の経験 を積みたくて,週に1回実習の名目で心理士としての臨床心理査定を皮切りに,臨床心理面接の訓練を受けていた。この時が約30年前である。私は,臨床現場 に出たいという気持ちから修士課程修了後単科の精神科に就職をした。実習の時も感じていたが,精神科の基本的なことは分かっていたつもりだが,実習や就職 をしてみると精神医学のことだけを分かっていればすむようなことではないとつくづく思い知らされた。今から考えると当たり前のことではある。例えば,医学 一般,バイタル,薬の処方の書き方,これはカルテを見るとき,患者様がどのようなお薬を1日何回服用されているのか知っておくことも大切であると現場では 思った。また,思春期の患者様に対しても,思春期心性だけを知っておくだけではなく,身体的な成長もきちんと知っておいた方がカウンセリングにも役に立つ のではないかとも感じていた。
そのように考えていた私は,幸いにも定例職能研修会を医療保健委員会で計画立案する機会に出会えた。会議の時に,私は,これらの経験から,自分なりに意見を言おうと思っていると,他の委員の方々も同様なことを考えておられた。私はただ黙って委員の方々の意見を聴いているに過ぎないだけであった。
そのようにして計画された定例職能研修会であったためか,この研修会に,出られなかった会員の方々からも,他の委員会との同時開催はやめて欲しい,今回の 研修会の内容を知りたいなど多くの方々から反響があった。確かに,私が聴いたものや司会をしたものは,新しい分野のものや隣接領域ではあるが,なかなか聴 くことができない講演が多かったと感じていた。この感覚は私だけではなく,研修を受けられた会員の皆様も同様のことを感じておられたのだと思った。また, 原稿を読ませて頂いてなおさらそのことは確信した。
このようなことがきっかけで,津川委員長をはじめ委員の方々から本にしてはどうだろうということになった。私も二つ返事で同意した。それから,委員長を中 心に本への企画が練られたのであった。また,この企画が実現したのは,日本臨床心理士会の第1期の理事の方々の同意があったからである。これが今回の本の 上梓に至った理由である。
最後になるが,この企画を快く賛成して頂き出版に同意くださった,遠見書房の山内俊介社長に謝意を表したい。山内さんの協力がなかったらこの企画が実現するこうはなかったであろう。
そして,この本が臨床実践をしている皆さん,あるいは初めようとしている皆さんの少しでも糧になれば幸いである。

一般社団法人 日本臨床心理士会第1期常務理事
浦田英範


執筆者一覧

(アルファベット順)

荒川亮介(前 厚生労働省障害保健福祉部精神・障害保健課:精神科医)
江口昌克(静岡大学大学院人文社会科学研究科臨床人間科学専攻:臨床心理士)
淵上奈緒子(医療法人社団光生会 平川病院心理療法科:臨床心理士)
福田由利(医療法人社団八葉会 大石記念病院:臨床心理士)
花村温子(埼玉社会保険病院心理療法室:臨床心理士)
原田 徹(医療法人社団 ウエノ診療所:臨床心理士)
小林仁志(福井県臨床心理士会/公益財団法人 松原病院診療技術部臨床心理室:臨床心理士)
近藤直司(東京都立小児総合医療センター児童・思春期精神科:精神科医)
村瀬嘉代子(一般社団法人 日本臨床心理士会会長/北翔大学大学院:臨床心理士)
荻野達史(静岡大学人文社会科学部:社会学者)
境 泉洋(徳島大学大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部:臨床心理士)
清水康之(NPO法人 自殺対策支援センター ライフリンク代表)
高木俊介(たかぎクリニック:精神科医)
津川律子(一般社団法人 日本臨床心理士会副会長/日本大学文理学部心理学科/帝京大学医学部附属溝口病院精神神経科:臨床心理士)
浦田英範(筑紫女学園大学:臨床心理士)
山下弥生(岡山県臨床心理士会/河田病院:臨床心理士)
吉村理穂(医療法人財団厚生協会 大泉病院:臨床心理士)
須藤志保(医療法人社団風鳴会 地域生活支援センター/サポートセンターきぬた退院促進支援事業部門/東京都退院促進支援事業サブコーディネーター:臨床心理士)

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