学校でフル活用する認知行動療法

学校でフル活用する認知行動療法

新潟大学人文社会・教育科学系(教育学部)教授 神村栄一著

定価1,600円(+税)、140頁、四六判、並製
C0011 ISBN978-4-904536-79-7

認知行動療法 in 学校臨床の
技術とコツ,そして熱いハートを伝授!

今すぐ何とかしなくちゃいけない! 学校はそんな場面がたくさんあります。こんなときこそ,認知行動療法! ……ですが,学校で活用するには,学校のやり方に工夫された認知行動療法が必要なわけです。

日々の相談活動に認知行動療法のコツを取り入れれば,子どもたちとその環境によい変化がもたらされる(ハズ)。
認知行動療法のスペシャリストにして,学校臨床の達人 神村栄一先生によるこの本を読めば,解決志向な理論と技術の体系である認知行動療法のエッセンスが,読み進めていくうちに自然と身につく!

本書の詳しい内容


おもな目次

5分で理解できる! 超お手軽な認知行動療法の概説

1.「変える」ではなく「変わりやすくする」のが認知行動療法

2.問題行動の「効果(機能)」にどう迫るか

3.「解決志向の三角形」をつくってみよう!

4.認知行動療法 虎の巻

5.ちょい先の「未来予想図」が支援を導く

6.エクスポージャーが効くそうじゃぁ?

7.「意味のない考え(強迫観念)」から楽になる方法

8. SSTには「認知行動療法らしさ」が満載なんです

9.実況中継「教室で行う生徒間トラブルのSST」

10.実況中継2「教室で行ういじめ予防のSST」

11.「認知の変容の技法」にチャレンジ

12.「自分取り扱いマニュアル」の作成を支援する

附録 認知行動療法おすすめ図書


まえがき

本書のねらい
本書は,認知行動療法というカウンセリング手法を,教育相談領域に特化して紹介することをねらいとしています。学校の先生,教育相談員やスクールカウンセラーの皆さん,および,これらの専門職を目指す方々を,主な読者対象に想定しました。もちろん,学童期から思春期にかけての子育てに関心ある保護者の方に も参考にしていただけるはずです。
日々の相談活動に,認知行動療法の発想をとり入れていただければいただくほど,子どもたちととりまく環境に「よき変化」がもたらされやすくなるというのが,30年ほどの実践を通しての,筆者の実感です。
教育相談で最も大切なことは,現場での工夫にあります。本書がきっかけで,読者の皆さんの,教育相談における「工夫力」がいっそう高まるはずです。
ただし本書は,面接技術や面接の中で用いる技法やワークシートの使い方を解説した,技術マニュアルではありません。解決志向な理論と技術の体系である認知行動療法のエッセンスが,読み進めていくうちに自然と身につくよう,まとめられています。
教育相談の経験ある方であれば,お仕事がお休みの日にご自宅で寝転がって読んでいただく,あるいは,年にわずかの研修日に静かな勤務先で気軽に読み進めていただくのに,ちょうどよい,軽めの内容としたつもりです。

なぜ認知行動療法なのか?
ひと昔,ふた昔前の教育相談では,気になるサインを示す子どもたちの心の奥にある「心理的原因」を浮かび上がらせることが強調されました。子ども達は本来,純粋無垢な存在で,にもかかわらず問題行動を示すというのはそれなりの根深い原因があるはずだ,といった理解が支配的でした。
そのため,普通の教科の勉強のように,正しい生活,ふるまいや考え方のパターンへと教え導く,という対応に対しては,しばしば批判的なコメントがなされました。
そこで多くの専門家が現場に求めたのは,受容や共感,成長を待つ姿勢でした。実のところ,こちらでも,成果は芳しくありませんでした。ところが,そのよう な期待外れの結果には,「待ちと受容」がまだ不十分だからだ,という説明がなされました。このような説明自体が自己防衛的な論旨で,批判を受けにくい構造 となっておりました。その結果もたらされたものは,教育相談の領域の,支援力の停滞でした。
例えば不登校の問題について。ささいなことをきっかけに数日休んだのがきっかけで,それが数年も長期化してしまうようなケースが増え,90年代から2000年代には,過去最悪の高い不登校発生率の時代をむかえました。
いじめや暴力行為,あるいは自己に向かう攻撃の衝動──その典型的な問題がリストカット──なども,たしかに,その多くは,時間を経過させればいつかはお さまります。しかし,それがおさまるまでの時間がもたらす本人への,あるいは家族へのマイナス,生活の質の低下は,無視できるものではありません。にもか かわらず,「焦らず本人を信じる」ことが,支援者として重要であることが強調され「すぎ」ました。

果たして「待ちと見守り」優先でよいのか?
「見守る教育相談」がもたらしたものは,「ゆとり教育」がもたらしたマイナスに似ています。最近になって,当時の教育行政担当者,肯定的発言をしてきた教 育評論家らが,「ねらいは正しかったのだが,正しく現場に伝わらず結果としてマイナスを招いた」といった総括をしているようですが,見苦しいとさえ感じる のは筆者だけでしょうか。
21世紀を迎え,教育相談の現場では,問題をかかえ,不安定な子ども達に,それまでよりも,もうすこし積極的に,ただし,冷静さを失わずにかかわってみる 提案がなされるようになりました。それらが,変化のきっかけとなり,解消が早まることも徐々に報告されるようになってきました。
いじめ加害や非行傾向のある子には,単純な厳罰化ではないが,毅然とした対応をとってみる,引きこもり状態にある子には,本人から前向きなサインが出現してくるのを待つばかりでなく,妥当性がある弱い刺激を定期的に提供してみる,家庭の外にも居場所を用意して促してみる,といった取り組みです。
発達障害が疑われる,あるいはすでに専門機関で診断されている子の問題行動に対する積極的な対応も,認知行動療法,あるいは他の解決志向のアプローチの有 効性を広く認識させることに貢献しました。本人の特性からくる問題行動にも,その子にオリジナルな対処方法を考案して導くこと,「特別」な工夫,支援体制を共有してみることの有効性が再認識されました。
筆者がおつきあいある先生方の中には,「スクールカウンセラーの導入初期には,『一般教員の教育相談と生徒指導の力量不足を国が認めた』ように受け止めてしまい,やや落ち込みましたが,その後の,特別支援のかかわりの導入で自信を回復し,かつ,スクールカウンセラーとも協調しやすくなった」との感想を語られた方も少なくありません。

教育相談領域以外では?
過去20年ほどの上述のような変化は,実は教育相談の領域だけではありません。ご存じのように,医療や福祉,司法矯正など,他の領域で心理療法の専門性が 不可欠な領域でも,認知行動療法をはじめとする,問題解決志向の強いアプローチへの評価が徐々に高まってきております。
うつ病など,大人の心の問題においても,徹底して受け入れ,延々と待つだけでなく,「軽く背中を押してみる」とか「具体的に一歩踏み出してみることを丁寧な説明を添えて提案してみる」ということが有効であることが明らかになってきました。
つまり,一つひとつの問題に対する具体的な対処方法,解決方法を工夫してみること,そのための支援体制を考案し,多少の試行錯誤も含めつつも個にベストのあり方を模索していることの大切さがあきらかになってきたのです。
当然,これらのノウハウを子どもにも提供できないか,という関心を持つ専門家,学校教職員が増えてきました。そして,実際に,本人やその支援者が,認知行動療法,問題解決志向な方法を実践してみると,きわめて有効であることが明らかになってきました。
子どもたちに,わかりやすく説明し,教え,その上でいっしょに考え,試行錯誤していくことは,教育相談,生徒指導の上でも,きわめて有効だったのです。そしてそれは,「心の専門家」といわれる学校外の専門家だけでなく,もともと,子どもたちに対して,「わかりやすく教え,楽しく実践できるように導く」スキルを持つ,一般の学校の先生方の得意領域でもあったのです。

筆者は,昭和の終わり,まだ学部学生であった時から,運良く,教育相談の実践 に関わるチャンスをいただきました。以来30年,最初は行動療法,この20年ほどは認知行動療法(ここでは,行動分析学アプローチ,および共通する解決思考の色彩の強い心理的援助技法を含む)の実践と研究に関わってきてきました。
特に,1995年4月に,新潟大学に赴任して以来,スクールカウンセラーも経験させていただき,新潟市,新潟県の学校教育に,臨床心理学を専門とする立場 で,さまざまな実践,コンサルテーションにかかわらせていただきました。今ではよく知られた「中1ギャップ」対策は,実は新潟県教育委員会が全国に先駆け たアイディアであるのですが,その研究班にも座長としてお誘いいただきました。
他に,日本認知・行動療法学会(2013年度までは,日本行動療法学会でしたが,法人化にあわせ名称変更となりました)などでも,全国のお力ある先生方から多くを学ばせていただきました。
本書では,そのエッセンスを,できるだけ,楽しく,お伝えしようというものです。


あとがき

インターネットやカーナビ,ハードディスクに録画できるビデオデッキ,スマートフォン。これらを使いこなしている人にすれば,使っていない人,食わず嫌いで手を出そうとしない人の気持ちが理解できないことでしょう。
「こんなに便利なもの,どーして購入しないの? 今の時代に生まれて。それって,すげー,もったいないじゃん」と言いたくもなるでしょう。
でも,このような言い方って,どこか嫌らしいですよね。
今日のように評価が高まる前から,行動療法,認知行動療法の実践や研究,教育にかかわってきて,紹介を求められると,どうしても,そーんな,嫌らしさをあ ちこちでまき散らしてきたのではないか,という気持ちがあります。少し,恥ずかしくもなりますし,反省する気持ちもあります。本書も,そんな気持ちを抱え ながら,執筆をすすめてきました。
しかし,カウンセリングや心理療法の実践においては,「愛する方がその問題でお困りだったとき,本当にそんな悠長なことを言っていれるでしょうか?」とつっこみたくなるような,実践報告がいまだに少なくない,という現実があります。
筆をおくにあたって,「私(著者)のことは嫌いになっても,認知行動療法の便利さには,食わず嫌いにならないで。フライングゲット」といった心境です。
20歳そこそこで,行動療法や認知行動療法に触れ,あっというまに,30年が経過しました。この間ご指導いただいた,多くの研究者でもあり実践家でもある 先生方,クライエントのみなさん,保護者や学校の教職員としていっしょに工夫を展開したみなさんに,感謝申し上げます。
さて,最後になりますが,本書は事実上,神村を含め3名の共著であることをここで白状しなければなりません。
うちお一人は,ほんの森出版の小林敏史さんです。ほとんど面識もない神村に,同社の看板の月刊誌『学校教育相談学』への連載執筆の依頼をいただきました。 本書は,2011年1月号から,12月号まで連載させていただいた原稿を加筆修正,コラムや附録を追加したものです。連載時から,構成のアドバイスなど で,大変お世話になりました。また,連載記事については,全国あちこちで,感想やお褒めの言葉を頂戴することができました。「おもしろい」「わかりやすい」「認知行動療法への認識が変わった」という感想ほど,いただいてうれしいものはありませんでした。
遠見出版の山内俊介さんにも,ここでは言い表せないほどの,粘り強いご支援をいただきました。おかげで,こうして単行本としての出版を実現できました。本 来なら,あと2,3年早く上梓させていただくことができたはずだったのですが,この間,筆者に公私ともにいろいろな「暗礁乗り上げ」があり,大幅に先延ば しになってしまいました。普通であれば,エンガチョ(絶交),されてもおかしくないところ,渋谷でお酒を酌み交わしたりしながらも,長く励ましをいただきました。
不幸中の幸いで,数年の熟成期間をおけたことにはプラスの側面もありました(言い訳でもあります)。連載には盛り込めなかった資料を追加で紹介させていただくことができました。
本書によって,「より効く」教育実践が,全国各地で活性化されることを願っております。

神村栄一


著者略歴

神村栄一(かみむら・えいいち)

1963年,福島県生まれ。新潟大学人文社会・教育科学系(教育学部)教授。博士(心理学),臨床心理士,専門行動療法士
1991年,筑波大学大学院博士課程満期退学。同大学院進学の1986年より,臨床心理学,特に認知行動療法・ストレス対処に関する基礎研究を行うととも に,小学生から成人までの教育相談,心理療法を実践。スクールカウンセラーとしての経験も豊富で,新潟県および県内市町村の教育委員会,小中高校との連携 で,子どものストレス,学校不適応やいじめ,子育て支援などに関する調査・介入研究をすすめてきた。認知行動療法を中心とした,不安症や気分の障害,自傷 行為やギャンブル,ゲーム等への依存の問題への介入研究にもとり組んでいる。
主な著書:『ストレス対処の個人差に関する臨床心理学的研究』(単著,風間書房,1995),『実践家のための認知行動療法テクニックガイド』(共著,北 大路書房,2005),『レベルアップしたい実践家のための事例で学ぶ認知行動療法テクニックガイド』(共著,北大路書房,2013),『認知行動療法』 (共著,放送大学教育振興会,2014)など多数

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