「かかわり」の心理臨床──催眠臨床・家族療法・ブリーフセラピーにおける関係性

「かかわり」の心理臨床──催眠臨床・家族療法・ブリーフセラピーにおける関係性

八巻 秀著

2,800円(+税) A5判 並製 216頁
C3011 ISBN978-4-86616-172-3
2023年6月発行

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本書は,アドラー心理学,家族療法,ブリーフセラピー,催眠療法を軸に臨床活動を続ける著者による論文集です。
システムズアプローチ,オートポイエーシス,ナラティヴ・アプローチ,オープンダイアローグなどの理論を日々の臨床現場にいかに活用するのかを模索する論考や,関係性や対話的な「かかわり」をキーワードに学校臨床,夫婦面接,イメージ療法,家族療法,ブリーフセラピーなどの事例を理論と実践を交えながら具体的に解説しています。
臨床家,研究者,ひとりの人間であるセラピストがクライエントと「かかわる」ときに,その「間」にはいったい何が生まれているのでしょうか。人と人が「かかわる」ことはどういうことか問い続ける,心理支援に携わる多くの方に手に取っていただきたい一冊となりました。


目次

はじめに
序章 心理臨床における私の「かかわり」をたどる
第1部  セラピストとしての「かかわり」
第1章 心理療法においてセラピストが「主体的になること」
第2章 スクールカウンセリングにおける「発達障害という状況」への取り組み方
第3章 スクールカウンセラーとして学校臨床現場のニーズを汲み取り,引き出し,応える心理臨床とは?
第4章 《書評》田嶌誠一著『その場で関わる心理臨床─多面的体験支援アプローチ』遠見書房,2016年.
第2部 催眠臨床における「かかわり」
第1章 イメージ療法におけるイメージの間主体性
第2章 「関係性」という視点から見た催眠臨床─トランス空間とオートポイエーシス
第3章 「オートポイエーシス」って何?─ある大学教員と大学院生との会話から
第4章 トランス空間を作り,その中で主体的に振る舞う─私が心理臨床をしていく上で大切にしている8つのこと
第3部 心理臨床仲間との「かかわり」
第1章 ブリーフセラピーが心理臨床家の養成に貢献できることは何か─スクールカウンセリングの現場から
第2章 《書評》和田のりあき『がんに負けない心理学─臨床心理士が教える心の応急手当とケアの方法』PHP研究所,2009年.
第3章 「ある本を完成するにいたるまでの物語」と「ナラティヴ・セラピスト高橋規子について」
第4章 高橋規子先生を偲んで
第5章 臨床エッセイ心理臨床機関における受付業務担当の重要性─Oさんへの感謝の気持ちを込めて
第4部 家族療法・ブリーフセラピーでの「かかわり」
第1章 夫婦とセラピストとの「間」の創出と活用
第2章 「システム論」で学校をみるということ
第3章 「円環的思考」について─「問い」から「想像」へ,そして「仮説」へ
第4章 《書評》坂本真佐哉,黒沢幸子編『不登校・ひきこもりに効くブリーフセラピー』日本評論社,2016年.
第5部 あるクライエントとの「かかわり」

    あるクライエントからの「成績表」

    カウンセリングの20年後
あとがき


 

著者略歴
八巻 秀(やまき しゅう)
 1963年岩手県生まれ。公認心理師。臨床心理士。駒澤大学文学部心理学科教授。SYプラクティス代表。やまき心理臨床オフィス・スーパーバイザー。岩手県総合教育センター・スーパーバイザー。東京理科大学理学部応用数学科を卒業し,中高一貫校の数学教師となるが,その後,臨床心理学の実践研究に転じ,駒澤大学大学院心理学専攻を修了。精神科・心療内科・カウンセリングセンターなどで臨床経験を積み,秋田大学教育文化学部勤務を経て,現職。現在,駒澤大学で公認心理師・臨床心理士の養成を行うとともに,SYプラクティスでの臨床活動を行いつつ,心理職や家裁調査官,学校教員などへの専門家への研修,あるいは一般の方々への講演会などの活動も積極的に行なっている。
 臨床活動や臨床教育では,関係性や対話的なアプローチである「かかわり」を重視している。そのモットーは「主体的に・楽観的に・その場で生まれてくることを大切に」。専門は,臨床心理学(アドラー心理学・家族療法・ブリーフセラピー・催眠療法・オープンダイアローグなど)。

 


はじめに

数多くある本の中で,この本を手に取っていただき,ありがとうございます。
この本は,私が心理臨床家・セラピストとしての約30年の経験を通して,これまで書き溜めてきた論文や書評,エッセイ,講演録などから,あらためて選び直して,さらに加筆・修正した「論考集」です。
そのような本に,はたしてどのような「名前」をつけたら良いか,ずっと考えていましたが,いろいろな言葉が降りてきては消え,また降りてくるということを繰り返して,最後は「かかわり」という言葉が一番腑に落ちる感じがして,この本のタイトルは「かかわり」の心理臨床としてみました。

この平仮名の「かかわり」を漢字にすると,主に3つ
「関わり」 「係わり」 「拘わり」
があげられます。
それら一つひとつの意味を辞書で調べてみました。
まず「関わり」は「関係をもつ。関係する」こと。例えば「研究にかかわった人々」などはこの漢字になります。
それに対して「係わり」は「重大なつながりをもつ。影響が及ぶ」という意味。この意味による例文としては「命にかかわる問題」などがあげられます。
さらに「拘わり」は「こだわる」という意味。「つまらぬことにかかわっている場合ではない」などが例文としてあげられるでしょう。
これら3つの漢字があてられる「かかわり」という言葉は,私がこれまで心理臨床活動を行ってきた中で,大切にしてきたもの・こと・経験などを,まさに凝縮した・象徴している言葉のように思えたのです。
私がセラピストとして,さまざまな人・局面・状況に,どのように「かかわろう」としてきたのか。
例えば,いかにセラピストとして「配慮」や「工夫」をしながら,クライエントやその家族との「関係」や「かかわり」「つながり」を作っていけば良いのか,などということについて,これまでの心理臨床活動において,私が最も大切にしてきたことのように思います。
さらにその心理臨床における「かかわり」を,どのように論文などで描いて世に問おうとしてきたのか。この「かかわり」を論文等で描き出すために,これまでさまざまな「言葉」を探し求めて採用してきました。
そして,同じ心理臨床の先達である尊敬する先生方との「かかわり」や,心理臨床仲間としての先輩や同僚,そして後輩や大学院生たちとの「かかわり」から,自分がどんなことを学び,影響を受けてきたのか。
この本では,これらのような内容の文章が並んでいます。
そして,現在の心理臨床家としての私は,それらさまざまな人々との「かかわり」を通して,「対話」を重視した臨床へと少しずつシフトしてきています。究極の人と人との「かかわり」の鍵を握っているのは「対話していくこと」なのではないかと今現在は考えています。そこへ至るまでのこれまでの私の「考えや発想,さまざまな人とのかかわりの記録」が,この本になっているとも言えるかもしれません。
お時間が許せば,どうぞ私の「かかわり」の心理臨床のヒストリーあるいはナラティヴを,お読みいただければと思います。そのことを通して,読者の皆さんにとって,人・もの・こととの「かかわり」は,これまでどのようなことがあったか,あるいは皆さん一人ひとりにとっての「かかわり」とは何であるか,などという連想を,それぞれ各自で膨らませていっていただければ,この本を作ったものとして,大変嬉しく思います。
どうぞ,どこからでも結構です。興味ある部分からご自由にお読みください。


八巻 秀

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