ひきこもり、自由に生きる――社会的成熟を育む仲間作りと支援

ひきこもり、自由に生きる――社会的成熟を育む仲間作りと支援

宮西照夫 著 (和歌山大学名誉教授,NPOヴィダ・リブレ理事長)

本体2200円(+税) 46判並製 232頁 ISBN978-4-86616-115-0 C3011
ひきこもり支援40年のドクターが描く なかなか真似のできない奮闘の記録と みんなに真似してほしい援助のメソッド!

いま,ひきこもり者は日本に100万人以上いるとされ,ひきこもりの長期化や高齢化,孤立化などが問題となっている。しかし,一口にひきこもりと言っても,ひきこもりに至った背景や状況はさまざまであり,その一人ひとりに適切な支援が届いていないのが現状である。
本書は,大学,病院,NPOで40年にわたってひきこもり回復支援に従事してきた精神科医が,ひきこもりをもたらす社会背景や病理,ひきこもりのタイプを整理し,ひきこもり者に届く支援の実際を豊富な事例とともに語ったものである。ひきこもり者が「自由に生きる」ことを取り戻すために何ができるのかを模索した実践的援助論。


目 次
第一章  何故、日本の若者はひきこもるのか
1 ひきこもりに寛大な文化の終焉
2 スチューデント・アパシーの登場
3 ひきこもり世代の登場
4 アスペルガー世代の出現
第二章  ひきこもりの長期化
1 ひきこもりの長期化の過程
2 中高年のひきこもり者の増加と社会問題化
3 青年期に発達障害は増加したのか?
第三章  ひきこもり回復支援の楽しさ
1 ひきこもり回復支援プログラム
2 疾患別の治療やサポートの流れ
3 ひきこもる若者との出会い
第四章  集団精神療法と対話の重要性
1 病院でのひきこもり専門ショートケア
2 強烈な個性の仲間たち
第五章 NPO成立まで
1 ひきこもり研究所「ヴィダ・リブレ」と「プチ家出の家」を開設するまで
2 NPOの素晴らしい仲間たち
3 出   発


著者紹介
宮西照夫(みやにし てるお)
1948年和歌山県生まれ。
1973年和歌山県立医科大学卒業。精神医学専攻。博士(医学)。
和歌山大学保健管理センター所長・教授,評議員を経て名誉教授。現在,NPOヴィダ・リブレ理事長,和歌山県立医科大学非常勤講師。
1982年に和歌山大学でスチューデント・アパシーや社会的ひきこもりの研究を開始,2002年にひきこもり回復支援プログラムを完成し実践を続けている。2012年から2020年まで紀の川病院でひきこもり専門外来やショートケアを実施。
主な著書に,『マヤ人の精神世界への旅』(単著・大阪書籍),『ひきこもりと大学生―和歌山大学ひきこもり回復支援プログラムの実践』(単著・学苑社),『実践 ひきこもり回復支援プログラム―アウトリーチ型支援と集団精神療法』(単著・岩崎学術出版社),『一精神科医の異文化圏漂流記―マヤ篇』(単著・文芸社),『文化精神医学序説―病い・物語・民族誌』(編著・金剛出版),他。


はじめに
本書は、私の「ひきこもり」をテーマとした著作の第三作目にあたる。
第一作目『ひきこもりと大学生』は、ひきこもる子どもを抱えるご家族や本人に向けて、第二作目『実践 ひきこもり回復支援プログラム』は、ひきこもり支援の実践や枠組みをまとめたもので、治療者やサポートする方を意識して書いた。
私はこれまで大学で三〇年間、病院で九年間、そして、病院での仕事と並行してひきこもり研究所ヴィダ・リブレで五年間、研究所がNPOになってからさらに二年、ひきこもり回復支援と長期化を防止する取り組みを実践してきた。しかし、残念ながらひきこもりの長期化は進む一方で、現在、いわゆる八〇五〇問題が生じ、中高年のひきこもりを抱える家庭で不幸な事件が続き社会問題となっている。
今回の第三作目は、中高年のひきこもりの支援のありかたとその大きな原因であるひきこもりの長期化をいかにして防止できるかをテーマにまとめたものだ。
第一章「何故、日本の若者はひきこもるのか」では、ひきこもり問題の原点にもどり、日本社会でひきこもりを生じた社会病理を考えていく。第二章「ひきこもりの長期化」では、ひきこもりの長期化の過程とその対応の仕方を記したその上で、社会問題化している中高年のひきこもりの課題を具体的な事例を提示しながら論じた。第三章「ひきこもり回復支援の楽しさ」では、私たちが実施しているひきこもり回復支援プログラムの概要と、それをスタートさせるために不可欠なひきこもり者との出会いの重要性やアウトリーチの醍醐味とともに、私がひきこもりの長期化をもたらした最大の原因と考える、初期段階における専門家によるひきこもりの背景に存在する病態の診断について、その重要性と診断別によるサポートの流れを述べた。何故なら、社会的ひきこもりの言葉が社会現象となった当初、あまりにも精神医学モデルでの説明が軽視されすぎたように感じたからだ。第四章「集団精神療法と対話の重要性」では、ひきこもる若者たちの社会的成熟を育むための集団精神療法と専門ショートケアやアミーゴの会での対話の重要性とそこに集まる強烈な個性の愛すべき仲間たちについて書いた。第五章「NPO成立まで」では、社会参加を前にして、治療者と患者、カウンセラーとクライエント、そして、スタッフと利用者などの立場を超えたNPOヴィダ・リブレ(〝自由な生き方〟)を組織するまでの仲間たちの交流を描いた。
私は講演会でひきこもる若者を、恐ろしい蛇に睨まれ暗い穴に逃げ込み身動きができなくなった「か弱いウサギ」に例えて話す。蛇の邪悪な眼差しは、若者に恐怖を与える「学校社会」に代表される「社会」を象徴する。穴に逃げ込んだ心優しいウサギは、ひきこもる若者である。一時、私たちは穴に強引に手を突っ込み、怯えるウサギの首根っこを掴まえ引きずり出そうとする野蛮な集団だと非難されたことがあった。決してそうではない。私たちはその穴に、学校社会に代表される社会に脅威を感じた別のウサギを一匹、さらにもう一匹と入れてあげることを目的とした。そして、一匹ではなく、二匹、三匹が力を合わせて、逃げ込んだのとは違った方向に道を掘り進んでいけばよいと考えている。
このウサギはよくトリックスターとしてアフリカやアメリカの先住民の世界に登場する。ウサギは、現実社会の秩序を破壊し、新たな社会を創造する「死」と「再生」の象徴である。現代社会で普通に生きることに疑問を感じた若者たちが、「ひきこもる」ことで現在の普通とされる生き方に抵抗し、私のような老人の目には異文化と映る新たな文化を創りだそうとしている。「社会」が普通とする方向ではなく、違った方向に道を作る。そこには、新たな「社会」や「文化」を創造する可能性が秘められている。
大学で精神医学や文化人類学を教える研究者として、病院で臨床精神科医として、そして、さらにそのどちらからも距離を置いての、ひきこもり研究所とNPOヴィダ・リブレでのひきこもり経験者との交流は、結果として社会的ひきこもりは精神医学モデルだけでは説明やアプローチができないことを私に再認識させた。
本書は、その反省を込めてひきこもる若者たち、生き方を異にするが素晴らしい仲間たちとともに歩んだ39年間について書いたものだ。

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