公認心理師の基礎と実践⑯――健康・医療心理学

公認心理師の基礎と実践⑯
――健康・医療心理学

野島一彦・繁桝算男監修
(東京大学名誉教授)丹野義彦 編

2,600円(+税) A5判 並製 224頁 C3011 ISBN978-4-86616-066-5

公認心理師の基本知識
広く「いのち」にかかわる健康・医療心理学を学ぶ

公認心理師の働く場所として最大のものが,「保健医療分野」です。保健医療は市民の「いのち」に直接かかわる分野で,そこで仕事をするために必須の知識と技能がたくさんあります。その根幹となる1つは,この健康・医療心理学。本書は,同分野で活動,研究をする専門家たちによって書かれたテキストブックです。


目次

第1章 健康・医療心理学概論
丹野義彦

第1部 ストレスと心身の疾病との関係
第2章 ストレスの心理学と生理学
田中芳幸・津田 彰
第3章 ストレスによる心身の疾病と行動医学
野村 忍
第4章 健康心理学とポジティブ心理学
島井哲志

第2部 医療現場における心理社会的課題および必要な支援
第5章 精神科における公認心理師の活動
古村 健・石垣琢麿
第6章 心身医学(心療内科など)における公認心理師の活動
松野俊夫
第7章 小児医療・母子保健領域における公認心理師の活動
永田雅子
第8章 脳神経内科・リハビリテーション領域における公認心理師の活動
三浦佳代子・松井三枝
第9章 総合病院のチーム医療における公認心理師の活動
鈴木伸一
第10章 高齢者医療における公認心理師の活動
稲谷ふみ枝
第11章 医療観察法指定医療機関における公認心理師の活動
菊池安希子

第3部 保健活動が行われている現場における心理社会的課題および必要な支援
第12章 保健活動の現場と公認心理師
宮脇 稔
第13章 健康支援活動──とくにニコチン依存症治療における心理学的支援
山田冨美雄
第14章 自殺対策
田中江里子・坂本真士
第15章 福祉と医療
細野正人

第4部 災害時等に必要な心理に関する支援
第16章 災害被災者の心理と支援
片柳章子・中島聡美・金原さと子


編者略歴
丹野義彦(たんの・よしひこ)
1954年,宮城県生まれ,東京大学名誉教授,公認心理師。
1978年 東京大学文学部卒業
1981年 東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了(文学修士)
1985年 群馬大学大学院医学研究科修了(医学博士)
  群馬大学医療技術短期大学部助教授,東京大学大学院総合文化研究科研究科教授を経て現職。ロンドン大学客員研究員,日本学術会議会員などをつとめる。
  一般社団法人公認心理師の会理事長,公認心理師養成大学教員連絡協議会会長,日本心理学会常務理事,日本認知・行動療法学会理事。
主な著書:「講座 臨床心理学 全6巻」(共編)東京大学出版会,「叢書 実証にもとづく臨床心理学
全7巻」(共編)東京大学出版会,「エビデンス・ベイスト心理療法シリーズ
全9巻」(監修)金剛出版,「認知行動アプローチと臨床心理学:イギリスに学んだこと」金剛出版,「公認心理師エッセンシャルズ」(共編)有斐閣,「臨床心理学」(共著)有斐閣,「医療心理学を学ぶ人のために」(共編)世界思想社,「エビデンス臨床心理学」日本評論社
ほか多数

執筆者一覧
石垣琢麿(いしがき・たくま:東京大学大学院総合文化研究科)
稲谷ふみ枝(いなたに・ふみえ:鹿児島大学大学院臨床心理学研究科)
片柳章子(かたやなぎ・あきこ:国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター)
金原さと子(かねはら・さとこ:パロアルト大学心理学部臨床心理学科)
菊池安希子(きくち・あきこ:国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域・司法精神医療研究部)
坂本真士(さかもと・しんじ:日本大学文理学部心理学科)
島井哲志(しまい・さとし:関西福祉科学大学心理学部心理科学科)
鈴木伸一(すずき・しんいち:早稲田大学人間科学学術院)
田中江里子(たなか・えりこ:日本大学文理学部人文科学研究所)
田中芳幸(たなか・よしゆき:京都橘大学健康科学部心理学科)
丹野義彦(たんの・よしひこ:東京大学名誉教授)=編者
津田 彰(つだ・あきら:久留米大学文学部心理学科)
中島聡美(なかじま・さとみ:武蔵野大学人間科学部人間科学科)
永田雅子(ながた・まさこ:名古屋大学心の発達支援研究実践センター)
野村 忍(のむら・しのぶ:早稲田大学名誉教授)
古村 健(ふるむら・たけし:国立病院機構東尾張病院社会復帰科)
細野正人(ほその・まさと:東京大学大学院総合文化研究科)
松井三枝(まつい・みえ:金沢大学国際基幹教育院臨床認知科学)
松野俊夫(まつの・としお:日本大学板橋病院心療内科・日本大学医学部一般教育学系心理学分野)
三浦佳代子(みうら・かよこ:長崎純心大学人文学部地域包括支援学科)
宮脇 稔(みやわき・みのる:大阪人間科学大学心理学部心理学科)
山田冨美雄(やまだ・とみお:関西福祉科学大学心理学部心理科学科)

 

はじめに


本書は,公認心理師養成カリキュラムの科目「健康・医療心理学」に対応する教科書である。
健康・医療心理学は,公認心理師25科目の中でも重要な位置を占めている科目である。公認心理師の活躍する分野として,保健医療,福祉,教育,司法・犯罪,産業・労働の5つがあげられているが,このうち,保健医療分野は,働く心理職の人数が最も多い。大学院の心理実践実習においては医療機関での実習が必須となっており,保健医療分野の知識はとくに重視されている。保健医療は市民の「いのち」に直接かかわる分野であり,そこで仕事をするために必須の知識と技能というものがあるからである。保健医療分野の学習の中心となるのが健康・医療心理学という科目なのである。
公認心理師養成カリキュラムの各科目について,文部科学省・厚生労働省によって「含まれる事項」が定められている。「16 健康・医療心理学」には,以下の4項目があげられており,これらが学ぶべき大きな柱となる。

①ストレスと心身の疾病との関係
②医療現場における心理社会的課題及び必要な支援
③保健活動が行われている現場における心理社会的課題及び必要な支援
④災害時等に必要な心理に関する支援

本書はこの4つの柱に沿って構成した。執筆を担当したのは,健康・医療心理学の中心で仕事をされている方である。
第1部は,ストレスと心身の疾病との関係(健康心理学)について扱う。健康心理学とは,健康と病気の心理学的側面について研究し,健康の改善のために心理学の理論や方法を用いる学問領域である。これまで健康心理学の中心的課題は,ストレスの発生メカニズムや対処を研究するストレス研究である。第1部は,「ストレスの心理学と生理学」,「ストレスによる心身の疾病と行動医学」,「健康心理学とポジティブ心理学」という3つの章からなる。
第2部は,医療現場における心理社会的課題および必要な支援(医療心理学)を扱う。医療心理学とは,病院や診療所などの医療機関における心理学的サービスの基礎となる学問領域である。公認心理師が働く医療機関は,これまでは精神科が最も多かったが,最近では,心療内科・内科,小児科,神経科・リハビリテーション科などの各科や,医療観察指定医療機関,高齢者医療施設,先端医療施設などさまざまな機関に広がっている。そこで,第2部は,公認心理師が働くさまざまな現場を取りあげて,患者の心理の特徴,心理アセスメント,心理的支援・介入など,必要な知識と考え方をまとめている。
第3部は,医療現場における心理社会的課題および必要な支援(健康支援の心理学)を扱っている。医療活動は,病院という枠を超えて,保健所や 地域包括支援センター,介護施設といった地域社会へと広がり,ストレスマネジメント,自殺対策,認知症,ひきこもりなど,さまざまな健康支援活動がさかんにおこなわれている。第3部では,「保健活動の現場と公認心理師」「健康支援活動」「自殺予防活動」「福祉と医療」について述べる。
第4部は,災害時等に必要な心理に関する支援(災害心理学)を扱っている。災害心理学とは,災害に対する心理的な反応や災害時の行動を研究し,被災者へのケアのために心理学の理論や方法を用いる学問領域である。大きな災害が毎年のようにおこっており,被災者に対するこころのケアは大きな社会的課題となっている。このため公認心理師は災害時に必要な支援方法を知っておく必要がある。第4部では,「災害被災者の心理と支援」について解説した。

健康・医療心理学を学ぶうえで大切なことは,正確な「知識」を学ぶとともに,それを「技能」として身につけることである。大学では,まず実践心理学の「知識」をきちんと身につけることが必要である。そのうえで,大学院や現場実習においては,「知識」を「技能」として身につける必要がある。国家試験においても,事例問題に現れているように,実践的問題解決のプロセスをきちんと身についているかが問われる。これは,要支援者の問題を的確に理解し,支援策を案出し,意思決定をおこない,支援策を実施し検証する,といったエビデンスにもとづいた実践プロセスである注)。単なる表面的な暗記では歯が立たない。大学で身につけた正確な「知識」を,大学院と現場実習でどれだけ「技能」としてしっかり結晶化させたかが問われる。
本書が公認心理師をめざす皆さまの学びの指針となり,市民の心の健康に真に貢献できる公認心理師となるための一助となれば幸いである。

2020年6月
丹野義彦

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