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臨床アドラー心理学のすすめ
――セラピストの基本姿勢から実践の応用まで

八巻 秀・深沢孝之・鈴木義也 著
駒澤大学・心理臨床オフィス・ルーエ・東洋学園大学

定価2,000円(+税) 184頁 四六判 並製
ISBN978-4-86616-033-7 C3011
2017年8月8日発行

 

心理臨床場面で使えるアドラー心理学
3人がその現代でも通じる援助思想と,実践に応用できる手法を公開

アドラー心理学が流行っています。
が,本書は,脚光を浴びる以前から地道にアドラー心理学を臨床に取り入れ,活動を続けていた3人の臨床家によって書かれた,対人支援実践の入門書です。
自己啓発のイメージが強いアドラー心理学。ですが,アドラーは今でいう児童相談所を世界で初めて開設し,教育と医療と地域社会との協働的なアプローチを行なった生粋の臨床家でした。アドラー心理学は実直に広がり,さまざまな流派の心理療法と交わりながら,心理療法のベースとなるアプローチとして今もなお実践・研究がされています。本書もその一翼を担うものとなっています。
また心理臨床における重鎮の一人,箕口雅博先生(立教大学名誉教授)との座談会も収録。アドラー心理学と他の心理療法を統合を描き明日の対人支援の仕事をよりよいものにする1冊になっています。

また,本書に掲載された箕口を含めた4人の座談会の未収録部分をWebにUPしました。
(八巻秀先生が主宰する「やまき心理オフィス」のHPに飛びます)
https://www.yamaki-shuu.com/%E3%82%A2%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%BC%E5%BF%83%E7%90%86%E8%87%A8%E5%BA%8A%E5%BA%A7%E8%AB%87%E4%BC%9A-%E5%89%8D%E5%8D%8A/


   はじめに

心理臨床家アルフレッド・アドラー
アルフレッド・アドラーは根っからの臨床家であった。
1895年にウィーン大学医学部を卒業したアドラーは,最初は眼科医として働き,その後貧しい人々が多く住んでいたレオポルトシュタットに診療所を開業して,内科医として多くの患者の治療にあたった。
この診療所での臨床経験が,アドラーの心理臨床家の始まりであったと思われる。
診療所の近くにはプラーター遊園地があり,その中の見世物小屋などで働く軽業師や大道芸人が患者として診療所を訪れることがあった。彼らは並外れた体力と技を持って自らの生計を立てていたにもかかわらず,実は一方では,生まれついての虚弱さに苦しんでいたこと,後にその弱さを努力して克服していったことなどを,主治医であるアドラーに語った。それらの語りを聴きながら,アドラーは,患者の外見的なものとは違う内面的な心理的な一面について考えるようになっていった。
次第にアドラーは,彼らが持っていた「器官劣等性」に関心を持つようになり,そこから生じるマイナスを何らかの形で「補償」しようとし,それが性格形成や行動に影響を与えているのではないかと考えるようになった。困難を克服しようというこのような衝動をアドラーが観察したことは,その後,「補償」と「劣等感」という現代心理学にとどまらずに日常語としても使われている心理学理論へと結実した。アドラーの初期の臨床実践から生まれた臨床心理学研究とも言えるだろう。
このようにアドラーは臨床の実践から,人の心理について考える,まさに臨床心理学者であり,そしてそれ以上に,その問題をどう解決していったら良いのかを考える心理臨床家でもあった。
アドラーの臨床心理学への貢献を描く
このようなアドラーの臨床心理学への貢献について,我々執筆者3名は,共同で『アドラー臨床心理学入門』(アルテ,2015)を執筆することにより,あらためてその意義を確認しようと試みた。『入門』と銘打っているだけあって,はじめてアドラー心理学に触れる方のために,アドラー心理学の基本的な理論から技法,そしてその応用にいたる全体像を,臨床心理学的な観点から見渡せるように,そして公平に記述しようと心がけた。それはある程度達成できたのではないかと自負している。
しかしながら,いざアドラー心理学の考え方や技法を現代の臨床現場で実践するにあたって,実際どのように考え,実践すれば良いのか,という点については,前書では描ききれなかった部分は多かったと思われた。3人の執筆者は,その後も学会や研究会等で会って話す機会が多かったこともあり,その「アドラー心理臨床を実践していく人のための実際的な本」の執筆の必要性はずっと語り合っていた。
今回やっとその作業に取り組むことができたのは,3名の執筆者のここ数年のさまざまな経験の積み重ねがあったからかもしれない。3名の執筆陣もそれぞれが持つ臨床現場(医療,教育,福祉,開業など)での心理実践を重ねながら,一方で講演会や研修会の講師を担当したり,新聞やテレビなどのマスコミの取材などにも対応する機会があり,それらの経験を通しても,アドラー心理学の世間の認知はここ数年でさらに広まったと思われる。
『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社,2013)のベストセラーから始まったアドラー心理学ブームは,一時期よりは落ち着いてきたものの,未だに続いている一つのムーブメントになりつつある。しかしながら,一般の方へのアドラー心理学の広がりに比べて,心理臨床の専門家への広がりはまだまだ足りない,あるいは「アドラー心理学によるカウンセリングは,単なる心理教育である」などという意見に代表されるような誤解があるのが現状である。このムーブメントになりつつあるアドラー心理学を,もともとアドラー自身がそうであった心理臨床実践に活かせる手助けとなる本を書きたいという思いが,3人の間でますます強くなっていき,今回の再執筆に至ったのである。

アドラー心理臨床を実践していくために

この本は「アドラー心理学を現場で適用するために,どのように考え,どう実践すれば良いのか」という意識を持っている人のために書かれている。
臨床現場でクライエントと出会う前にどう考え(第1章),どのように関わり(第2章),見立て(第3章),どのように介入し(第4章),社会的リソースなどとどのように連携していくのか(第5章)。このような現場で行われる作業の流れを意識しながら章立てをしており,それぞれの段階でアドラー心理学におけるどのような思想・理論・技法を考えていくのか,その具体例なども事例場面を通して描いている。各章ともまず各段階におけるアドラー心理臨床の実践のための基本要素をいくつか示し,それらの解説を行う。必要に応じてその具体的提示として事例の一端をご紹介していく。このような形式で臨床実践の各段階を描くことによって,読者がアドラー心理臨床の実際をイメージしやすくなると考えている。また,それらの一連の流れの中で起こりうる素朴な疑問に答える第6章も設定した。
第1章と2章は八巻,第3章と6章は鈴木,第4章と5章は深沢が執筆担当し,それぞれ各章の終りに他の2名の執筆者が,その章について補足的にコメントするという形式にした。前書『アドラー臨床心理学入門』は3人の執筆者が章ごとに完全に役割分担をして執筆したが,もっと3名の対話的相互交流を描くことができないかと考え,このような形式を試みている。カフェで友人と談笑・対話しながら自らの考えをまとめていくのが好きだったアドラーに習い,我々も本書で3者ができるだけ「対話」しながら,アドラー心理臨床を描き出すことを心がけたつもりである。
また,立教大学名誉教授である箕口雅博先生と執筆者3名が,まさに「対話」する座談会の機会を持ちことができ,その一部を第7章として記載した。箕口先生はコミュニティ心理学の実践的研究者として著名な方であるが,昨年そのコミュニティ心理学とアドラー心理学の統合を目指す著作を出されている(『コミュニティ・アプローチの実践:連携と協働とアドラー心理学』遠見書房,2016)。アドラー心理臨床の実践者同士の座談会として,刺激的な「対話」ができたと思われたので,ここに掲載することにした。
読者にとっては,自分の興味ある段階のどの章から読まれても構わないだろう。本書を通して,アドラー心理臨床に対して少しでも興味を持つだけにとどまらず,より多くの方が自らの現場でアドラー心理学の実践していける手助けになれば幸いである。
最後に,この本の始まりとして,アドラーが亡くなる3日前に言った言葉をご紹介する。

「生きている間に,私はいくつかの役立つことを発見できました。そして,それらは人類のために永く役に立ってくれると思います。私は,それを幸せに思います」

2017年5月 五月晴れの青空を眺めながら
八巻 秀


目 次

主な目次
第1章 ものの見方    八巻 秀
第2章 関わり方    八巻 秀
第3章 見立て    鈴木義也
第4章 介 入    深沢孝之
第5章 連 携    深沢孝之
第6章 Q&A    鈴木義也
第7章 座談会「臨床アドラー心理学のすすめ」(箕口雅博+八巻・深沢・鈴木)

 


著者紹介

八巻 秀[ヤマキシュウ]
1963年,岩手県生まれ。東京理科大学理学部卒業,駒澤大学大学院人文科学研究科心理学専攻修了。臨床心理士,指導催眠士。現在,駒澤大学文学部心理学科教授,やまき心理臨床オフィス代表

深沢孝之[フカサワタカユキ]
1965年,山梨県生まれ。早稲田大学第一文学部心理学専修卒業。人間総合科学大学大学院人間総合科学研究科心身健康科学専攻修了。臨床心理士,臨床発達心理士,シニア・アドラーカウンセラー。現在,心理臨床オフィス・ルーエ代表

鈴木義也[スズキヨシヤ]
国際基督教大学大学院教育学科教育心理専攻博士前期課程修了。臨床心理士,学校心理士。現在,東洋学園大学人間科学部人間科学科教授。