よくわかる 学校で役立つ子どもの認知行動療法──理論と実践をむすぶ

よくわかる 学校で役立つ子どもの認知行動療法
──理論と実践をむすぶ

(スクールカウンセラー/東京認知行動療法センター心理士)松丸 未来 著

1,700円(+税) A5判 並製 140頁 C3011 ISBN978-4-86616-161-7

 

スクールカウンセラーになり,もどかしい日々を送っていた著者が出会ったのが「子どもの認知行動療法」。それは即戦力,即効力を求める教育現場のニーズにぴったりなアイテムでした。

著者が実践に役立つために,幾度も「理論」に立ち返りながら,試行錯誤して身につけた「子どもの認知行動療法」を「動機づけ」「ケース・フォーミュレーション」「心理教育」「介入方法」など,基本的な認知行動療法の理論をもとにわかりやすく伝えます。

スクールカウンセラー,教育実践に関わる人だけではなく,認知行動療法初学者の方にとっても,よくわかり学校で役立つ基本の1冊。実践ですぐに使えるダウンロード可能なワークシート付き。


主な目次
第1章 認知行動療法の概要
第2章 子ども理解に役立つ認知行動療法
第3章 出会いと動機づけ
第4章 ケース・フォーミュレーション
第5章 介入に役立つエビデンス
第6章 感情に働きかける
第7章 うまくいかない認知に効く介入
第8章 うつに効く行動活性化
第9章 不安反応に効くエクスポージャー
第10章 周囲の大人もリソースとして活かす


著者略歴

松丸 未来(まつまる・みき)
東京都公立学校スクールカウンセラー,横浜雙葉小学校スクールカウンセラー,日本
人学校スクールカウンセラー,東京認知行動療法センター心理士。上智大学文学研究
科心理学専攻修了。公認心理師・臨床心理士。
監修「子どもの認知行動療法 不安・心配にさよならしよう」(ナツメ社,2019),「子
どもの認知行動療法 怒り・イライラを自分でコントロールする」(ナツメ社,2019),
翻訳「決定版 子どもと若者の認知行動療法ハンドブック」(金剛出版,2022),原
案・解説「あんしんゲット!の絵本」(ほるぶ出版,2021)

 


はじめに

 

Ⅰ 学校臨床で活かせる認知行動療法

SC(スクールカウンセラー)になりたての頃,帰り道はいつも一人反省会,自分の中途半端な仕事に不完全燃焼感を持つ日々でした。先生からは,「SCに何ができるの?」「相談室で何をやっているの?」といった「謎のお姉ちゃん」と思われていた感覚が今でも蘇ります。また,相談室登校の子どもに対応したとしても,自分の見立てや対応をうまく説明できず,先生と連携したくても連携どころか「SCにお任せします」と放り投げられてしまったりしていました。ときには,先生の「例外は認めない」「ただ怠けているだけ」「わがままだから」といった主張に「そうなんですね」と相槌を打つしかなく,自分の無力さ,子どもの良き理解者にもなれない不甲斐なさに落ち込むこともしばしばありました。
そのような中で出会った「子どもの認知行動療法」は,臨床力アップ,そして,即戦力,即効力を求める教育現場のニーズと合う,子どもに役立つ強力なアイテムでした。
「理論上」の認知行動療法から「実践に役立つ」認知行動療法として身になるには数々のうまくいかない思いを抱え,失敗を繰り返し,その度に理論に立ち返り,試行錯誤し,子どもたちにも教えられました。最初は使いこなせなかった認知行動療法というアイテムが経験値と共に使いこなせるようになり,「謎のお姉ちゃん」「秘密部屋」から,「機能するSC」「開かれた相談室」へと成長できたのではないかと思います。

 

Ⅱ SCのアイデンティティとしての認知行動療法

10年以上前のある生活指導部会の時,いつものように先生方やSCから子どもたちの現状報告を終えると,副校長先生から,「もっと自己肯定感を高められると,その子はきっと安定してくる」と一言アドバイスがありました。その時「会議のような場でも,瞬時に見立てて,介入方針を思いつき,コンサルテーションできるようになる必要がある。今の自分には,まだ適切なアドバイスをする力はない。もっと力をつけたい」と思ったことを思い出します。
その後,副校長先生の真似をして,「自己肯定感が低いから」「劣等感が強いから」と便利な言葉で子どもを捉えたつもりになり,保護者や先生に「自信をつけるために褒めることが大事です」「気持ちを受け止めてください」とアドバイスをしてみましたが,本当はもっと具体的に何をすると子どもが変わるのかを知りたいのだろうと思いました。また,子どもに「自信がつくといいよね」と伝えても,子どもはどうしたら自信がつくのかわかりません。
そこで,認知行動療法の出番です。認知行動療法では,現在の問題の背景にある悪循環をとらえて,具体的に今とは違う考えや行動を示唆しますので,何かが変わります。また,行動や考えを捉えられると,気持ちという目で見えない抽象的なものが具体的になります。例えば,「朝,お腹が痛いと言う」と『行動』で示し,「友達がいないから」とか,「自分は浮いていると思うんだよね」「誰とも話が合わないし」と,その子の『考え』を聞ければ,気持ちは「不安」「緊張」「さみしい」「はずかしい」のではと予想がつき,子どもに「それはさみしいし,不安になるよね。一人でいるところを見られると恥ずかしいよね」と伝えることで,寄り添えます。そして,不快な気持ちに対処する方法が子どもの中にあるかもしれないので,子どもに,どうしたら安心できるか聞いてみます。「話せる友だちがほしい」と答えるかもしれません。そうしたら,友達と何か接点を持つことがこの子のために役立ちますし,一人でいられる方法を考えることが助けになるかもしれません。
大人(先生)には,「教室に行こうとすると,自分に友だちがいないことを意識してしまって,お腹が痛くなるようです。保健室で過ごすことで自然と保健室に来る生徒と接点ができたり,相談室でも給食は一緒に食べたりするなど工夫してみたいと思います」と,見立てと方針を伝えられます。そうすると,先生方も子どもの保健室利用に理解を示してくださったり,席替えで話しやすい子をそばにしてくださったりするなどの配慮があるかもしれません。子どもが成功体験を積めるように,そして自己肯定感が高まるように,大人がどのようなサポートができるか,そして,子どもができることは何かがはっきりします。
このように認知行動療法を用いて,大人にとっても,子どもにとっても「実際にできそうなことを具体的にアドバイスしてくれる」「アドバイスの理由もちゃんと教えてくれる」役立つSCになることができます。

 

Ⅲ 認知行動療法はやってみるしかない

「実際に使いこなすのが難しい」「臨床に落とし込めない」といった声をよく聞きます。私も同じ道を辿ってきたので,とてもよくわかりますが,まずは実践してみるのが一番です。「理論を踏まえて,アセスメントをし,アセスメントに基づいて技法を選択し,技法を適応する際には工夫し,それでも効果が出なかったら,もう一回アセスメントし直し,方針を変えて介入する」といった柔軟性と行動力を持って,実行してみます。認知行動療法というと,技法が目立ちますが,「理論」「アセスメント」「技法」,この3つをセットにして実行することが重要です。頭も体も使うアプローチで,習得するには,少し手間暇かかりますが,理論と実践の架け橋として,本書が役に立てばと思います。

 

松丸未来

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