臨床家のための自律訓練法実践マニュアル──効果をあげるための正しい使い方

臨床家のための自律訓練法実践マニュアル

ゆたかクリニック付属催眠ストレス研究所所長 中島節夫 監修
神奈川県メンタルヘルスサポート協会 福山嘉綱+自律訓練法研究会 著

定価2,700円(+税)、192頁、A5判、並製
C3011 ISBN978-4-904536-81-0

効果をあげるための正しい使い方
自律訓練法の最良の手引き

精神医学や心理療法,心療内科などでよく利用され,効果の高いテクニックとして知られる「自律訓練法」。臨床家が自律訓練法を患者・クライエントに指導するときに必要となる基礎からコツ,真髄までをじっくりと教授したのが,この本です。
自律訓練法は,だれでも習得できるリラクセイション法で,リラックスを促し,眠れたり,緊張をほぐしたりといった健康問題や不安や抑うつなどの心の不調以外にも,心身症や精神疾患などにも利用可能な技術なっています。しかし,古くからある手技でかつ簡単に見えるため,キチンと理解されないままに臨床の場で 使われることも多くあります。
そこで,自律訓練法を得意とする臨床心理士 福山先生に,その経験をもとに自律訓練法のテクニックや,症状ごとの適用,禁忌など,そのメソッドを余すことなく描いてもらったのがこの本です。臨床家にとって必読の手引きとなりました。

本書の詳しい内容


おもな目次

Ⅰ 自律訓練法とは
1 自律訓練法の誕生
2 自律訓練法の効果
3 自律訓練法はどの領域で活用されているか
4 自律訓練法の適応と禁忌

Ⅱ なぜ自律訓練法か
1 なぜ自律訓練法を選択するか(自律訓練法のメリット)
2 自律訓練法をどのように使うか
3 いつどのタイミングで指導を開始するか

Ⅲ 自律訓練法の導入の前に
1 指導者が知っておくこと
2 導入前に伝えておくこと
3 練習する際の心得について
4 練習中はどのような体感的変化に気づくか
5 練習開始当初の困惑を解消する
6 練習を開始する上での基本事項
7 練習姿勢の選択
8 練習時間の選択
9 練習記録はなぜ必要か
10 生理・心理データの収集

Ⅳ 自律訓練法──標準練習をどう始めるか
1 姿勢を整える
2 姿勢を整えたら
3 公式(セリフ)の暗唱の仕方
4 消去動作を忘れずに
5 標準練習公式(セリフ)の実際

Ⅴ 自律訓練法──指導の実際
1 標準練習導入の進め方
2 標準練習導入後の指導上の留意点
3 不安が強いクライエントへの指導上の工夫

Ⅵ 指導事例
1 高齢者への適応
2 高齢者への導入にあたって
3 リワークでの適応
4 身体表現性障害への適応
5 感情障害への適応
6 自己臭恐怖への適応
7 適応障害への適応
8 不安障害への適応
9 介護者への適応

Ⅶ 自律訓練法に関するQ&A
1 効果が現れる時期
2 練習姿勢
3 練習環境について
4 練習回数・練習時間・呼吸
5 公式の唱え方
6 練習中に起こること:各公式との関連
7 練習中に起こること:変性意識状態・自律性解放現象
8 練習後に起こること:消去動作
9 練習がうまくいっているかどうか
10 練習ステップの進め方
11 症状と自律訓練法
12 練習の継続について

Ⅷ 資   料
1 自律訓練法の練習者からの質問内容
2 日本語が母語でない人のための練習公式


監修の言葉&はじめに

監修の言葉

教育分析はもともと精神分析の用語で,将来,精神分析を行おうとする者が自ら精神分析を受けるシステムのことをいう。最近ではさまざまな心理療法の分野でも,将来行おうとする心理療法を体験するシステムが取り入れられるようになってきている。
自律訓練法の分野でこのような教育分析的なシステムが取り入れられているかは寡聞にして知らない。この理由を考えてみるに自律訓練法は比較的簡単で,がっちりした枠組み(公式)が組まれており,誰がやっても大きな違いはないと思われてきたためもあると思われる。
しかし,臨床の現状をみるとかなり自己流のやり方が,横行しているのではなかろうか。訓練時間,姿勢,公式(セリフ)の暗唱の仕方,消去動作の方法,記録 用紙の記載方法,異常な反応が現れたときの対処法等々挙げたらきりがない。これらをある程度,統一するためには将来,自律訓練法を臨床指導する者は自らも教育分析的に自律訓練法を受けるべきではなかろうか。

監修者は31年前(1984)に3カ月間,カナダのバンクーバーでルーテから自律訓 練法のスーパービジョンを受ける機会があった。週に2~3回,1日 60~90分程度で,ルーテが監修者の借りたマンションに来てくれ,指導を受けた。1回の練習が終わると1時間単位で指導料をその場で現金で支払うという 形で行われた。また,次のセッションまで宿題も課せられた。その間に彼のオフィスの診察室も案内してくれた。
彼の指導は,厳格なものであった。監修者には「週末に風光明媚なバンクーバーの観光にでも」という下心があったが,早くもそれは見破られてしまい,「お前は何のためにバンクーバーまで来たんだ」と一喝されてしまった。
監修者にはとくに治療が必要な症状があったわけではなかったので,単純な自律訓練法を続けることにも,また訓練記録を英語で記載することにも時には苦痛に 感じることがあった。そういう時は本来ならばリラックスするはずの自律訓練法だが練習をするとかえって落ち着かなくなったり,イライラしてしまう。これに 対するルーテのアドバイスは“Short Stitch Exercise”をやれということだった。これは「右腕が重い」「右腕が重い」を2~3回繰り返し,直ちに消去動作をすることを4~5回繰り返すのであ る。このようなことは自ら自律訓練法を体験しないとなかなか理解しがたいのではなかろうか。

本書は,指導者(セラピスト)はいかにあるべ きかを中心に構成されている。シュルツの「自律性基本原則」は,「患者が練習しているうちは完全に黙っている ことが絶対に必要である。治療者が公式を声に出した暗示で援助したその瞬間に自律性原則は完全に破棄される」ということを承知の上で,本書ではこの原則を 一時的に棚上げにして,「練習がスムースに進むようになるまで,指導者が声に出していうことにしている」という態度をとっている。ルーテも導入時に“My right arm is heavy”,“My left arm is heavy”,“Both arm are heavy”と声に出して指導していたことが今でも耳に残っている。

近い将来,自律訓練法の分野でも教育分析的なシステムが導入されるだろう。その際,本書はその教材としての任を十分に果たすことができると思われる。

中島節夫

はじめに

自律訓練法は精神療法(心理療法)を紹介する際に必ず紹介される技法である。しかし,その内容はごく簡単な記載にとどまっており,クライエントに指導する 場合にどのようなことを留意しながら進めていけばよいかの説明は少ない。また,身近に自律訓練法の指導法をアドバイスしてくれる専門家も少ない。そのため 指導を試みても困惑したときにアドバイスがもらえず,指導することに消極的になってしまったり,自己流の指導法になってしまうことがある。
日本自律訓練学会は,各地で,自律訓練法に関心を持つ者に対して,正確な知識と指導法を紹介するセミナーを開催し,各回ともに一定の参加者を得ている。自律訓練法に対する関心も拡大しつつあり,日本自律訓練学会会員も増えてきているが,会員数は他の心理療法関連学会に比べてそれほど多くはない。

筆者の自律訓練法との出会いは,監修者である中島節夫先生が日本自律訓練学会設立時の主要メンバーの一人であり,当時部下であった私も1985年の自律訓 練学会設立総会にスタッフとして加わったことにある。私は,この時に自律訓練法を身近な技法として意識したが,援助技法として取り入れたのは1986年に 入ってからである。
筆者は,当時,病院(精神科)に勤務しており,身体的・精神的自覚症状を持つ人たちの心理的援助を担当していた。この頃,主流であった心理技法は,言語的 コミュニケーションを介してクライエントの抱える問題の力動的側面を明らかにし,内面の再体制化を促す方法である。この方法は成果を上げるまでにかなり長 い時間を要するものである。
筆者は担当していたクライエントから,「眠れない日が続くと,頭痛がしたり,イライラしやすくなったり,身体もだるく,仕事にも支障が出てくる。もっと早 く楽になりたい」と遠慮がちに伝えられた。当時,短期間で効果的にクライエントの症状解消が必要ではないかと考えていた時だったので,これを機に自律訓練 法の習得に本格的に取り組むことにした。
最初に自律訓練法を指導したのは,不安障害(対人恐怖)のクライエントであった。この方は,研究職で職場内ではチームリーダーとして,後輩の指導,学会や 症例検討会で報告するなど人前で話すことが多い職務であった。滑舌が悪くなったり冷や汗をかいたりする緊張症状が持続したため精神安定剤の服用で緊張感を 和らげていた。しかし,十分な改善が得られなかったため,他に改善の方法はないかと主治医に伝え,自律訓練法の導入に至った事例である。導入後の4週間 は,「練習してもリラックス感がない」「練習がうまくいかないので落ち込んでしまう」と話していた。指導者の「何とか早く楽になりたいと考えるのは当然だ が,急がば回れ。淡々と練習してみよう」とのアドバイスを受け入れた後は,指導のセッション毎に表情が明るくなり,「緊張するけど人前で話すことも少しず つやっています」と報告するようになった。
以来,筆者はより自律訓練法へ関心を強め,ついに主たる援助技法になった。自律訓練法を得てから私自身もクライエントの前に自信を持って立つことができるようになったといっても過言ではない。

現在でもなお,心理臨床領域や精神科領域で中心となる心理技法はカウンセリングであり,自律訓練法は周辺技法という位置づけにある。これは自律訓練法の不 安軽減効果や不安・緊張に付随する自律神経症状の軽減効果といった,技法の有効性が十分に認識されていないためではないかと考えている。
筆者は,心理臨床家として30年余,精神科を中心とする病院臨床の場で過ごしてきた。この間,援助技法として,精神分析療法,クライエント中心療法,行動 療法などさまざまな技法を用いたが,症状や状態に対して短期間で効果的に肯定的な変化を与える方法は,行動療法や自律訓練法が優位であると実感している。

ここでは,自律訓練法の指導を行おうとする臨床家に対して,自律訓練法の指導がどのように始まり,どのような点に留意しながら展開していくかを具体的に紹介することを目的とした。


監修者・主著者略歴・執筆者一覧

監修者略歴

中島節夫
1937年,旧満州生まれ。慶應義塾大学医学部卒業。精神科医師。
1974年,北里大学医学部精神科講師,1997年,同大学医療衛生学部助教授を経て,現在「ゆたかクリニック」付属催眠ストレス研究所所長。

主著者略歴

福山嘉綱
1949年,鹿児島県生まれ。筑波大学大学院修士課程修了。臨床心理士。
1993年,北里大学東病院臨床心理係長。1996年,北里大学医療衛生学部・看護学部・薬学部兼任講師。2006年,慶應義塾大学非常勤講師を経て,現在NPO法人 神奈川県メンタルヘルスサポート協会顧問,北里大学大学院看護研究科非常勤講師

執筆者

自律訓練法研究会
福山嘉綱:同上 担当:Ⅰ~Ⅳ,Ⅴ2.3Ⅵ8,Ⅶ
福山 渉:三楽病院 担当:Ⅴ1
佐々木良枝:NPO法人 神奈川県メンタルヘルスサポート協会 担当:Ⅵ1
猿渡めぐみ:NPO法人 神奈川県メンタルヘルスサポート協会 担当:Ⅵ2,3,Ⅷ1
敷 寿枝:NPO法人 神奈川県メンタルヘルスサポート協会 担当:Ⅵ4,5,6,7
小林由香:相模原病院 担当:Ⅷ1,写真モデル

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