ナラティヴ・ベイスト・メディスン入門

ナラティヴ・ベイスト・メディスン入門

市山康暢著

定価2,400円＋税、192頁、四六版
C3047　ISBN978-4-904536-65-0

ナラティヴがわかる入門書の決定版

医療という行為のなかで，ナラティヴやNBMを意識することは，果たして意味のあることなのか。意味があるとしたら，そのナラティヴの背景となっている考えはどういったものだろうか。日々の臨床膨大なと文献展望から生まれた，ナラティヴとNBMのガイドブック。

ナラティヴ・ベイスト・メディスンを皮切りに，ナラティヴ論やナラティヴ・セラピー，社会構成主義など広範で難解な事柄を，だれでもわかりやすく，なおかつ，医療実践に即して書かれたのが，本書「ナラティヴ・ベイスト・メディスン（NBM）入門」です。
「ただ話を聞けばよい」「語ってもらって傾聴すればいい」というナラティヴやNBMに対する誤解は多く，精神論や倫理観として理解されているところがあります。間違いではないですが，正解でもない。本書では，具体的な治療場面を想定しながら，ナラティヴや社会構成主義について解説し，ナラティヴの導入によってどう日常の医療業務のあり方が変わるのかを描きました。
内科医である著者によって書かれた医療者のための入門書は，ナラティヴを学ぶうえでの最良の１冊となることでしょう。

関連書：「医療におけるナラティブとエビデンス」（斎藤清二著）

◆ 本書の詳しい内容

おもな目次

第１章　なぜ今，NBMなのか？

第２章　ナラティヴはなにに効く？

第３章　なぜNBMは広まらない？

第４章　NBMの考えの中心となる「社会構成主義」とは？

第５章　ナラティヴが注目された歴史的経緯からNBMを理解する

第６章　ナラティヴ・セラピーの実践からナラティヴを理解する

第７章　医師の物語について

第８章　NBM実践への道

第９章　医療従事者と患者との新しい関係

第10章　社会構成主義への批判：現実というものをどう考えるか

第11章　臨床での医学的情報とは「物語り」である

あとがき

最後の最後にこういうことを書くのも何ですが，本文でも述べているとおり，私自身は，医療の中でナラティヴを実践しているわけではありません。おそらく今後もこのままでしょう。そんな人間が，ナラティヴについての入門書を書いているのですから，これを読まれた方は「詐欺だ」と思われるかもしれません。
しかし，ナラティヴを実践していない人間が，あえて入門書を書いていることに注目していただけると幸いです。たとえナラティヴを実践していなくても，ナラティヴを知っておいた方がよいか問われれば，答えは「イエス」です。それは，ナラティヴ本によくある共感能力を高めるとかいったものではなく，もっと臨床のプラクティカルな面についてです。患者の見ている現実と，医師の見ている現実に大きな隔たりがあるのは，臨床の世界では自明のことです。そして，正しいとされる医学的事実も，純粋なサイエンスではなく，専門家のコミュニティーから生まれた言語的な産物と見ることもできます。そもそも統計での研究結果は，せいぜい傾向が分かるくらいで，万人に当てはまる法則が出てくるわけではないのですから。
ナラティヴの意味するところが，「物語る」以上のものであることは強調しておきたいところです。患者はモノローグで「語る」のではなく，必ず誰かしらに対して「語る」ことを意味します。ナラティヴでの「語り」は，語る人間による，一方通行の行為を表すものではありません。そしてその「誰か」は，必ずしも目の前にいる人ではないかもしれません。しかし，聞く行為は，「語り」の意味に含まれており，「聞く」行為が物語りを変化させる可能性があります。それに加え，語る側と聞く側が入れ替わり，新たな物語りが生まれる可能性もあります。
患者の語る病いの経験を聞くだけで，患者は癒されるわけではありません。そう簡単なものではないことは，臨床をやっていればよく経験されることです。医療従事者は，ナラティヴに癒しの効果を期待しますが，ナラティヴを学習しても，癒し手としての能力がただちに身につくわけではありません。ただし，ナラティヴを知っていることが前提にあって，癒しの技術を学ぶならば，それは大いに役立つでしょう。

著者略歴

市山康暢（いちやま・やすのぶ）　内科医
1972 年長崎県生まれ。1997 年３月佐賀医科大学（現，佐賀大学）医学部医学科卒業。1997 年４月同大学総合診療部。2011 年町立太良病院。