臨床心理実習マニュアル

臨床心理実習マニュアル

龍谷大教授 友久久雄・吉川 悟 編

定価2,200円(+税)、176頁、四六判、並製
C3011 ISBN978-4-904536-50-6

がんばれ 現場実習!
──とはいえ,空回りに終わらぬように,ポイントを押さえた この本,読んでおいてください

本書は,専門家になるために課せられている「臨床心理実習」の手引きです。実習での心得と,実習中に必要となる臨床心理やその周辺領域の知識をコンパクトにまとめています。充実した実習を行うために欠かせない1冊となりました。
第1部は,多様なオリエンテーションと多様な現場に共通する知見の,基本の中の基本ともいえる部分だけを取り出し,整理しました。第2部は,学生が実習先 で出会う疾患について,事例の理解に結びつくためのクライエントの背景にある家族に対するアセスメントを含め,解説しました。
本書を片手に,臨床心理実践への冒険をはじめましょう。

本書の詳しい内容


おもな目次

第1部 実習のための基本

第1章 臨床心理の実践にむけて
第2章 臨床心理実習に当たっての心得
第3章 臨床心理実習の領域別基本事項
第4章 子どもの臨床心理


第2部 実習のための臨床メモ

第1章 妄想と幻覚
第2章 うつ病
第3章 パーソナリティ障害
第4章 発達障害
第5章 心身症
第6章 自傷行為
第7章 摂食障害
第8章 強迫性障害
第9章 ひきこもり・不登校
第10章 トラウマ
第11章 虐待やDVなどの家族の問題
第12章 事例の背景にある「家族」を考慮すること


はじめに

臨床心理士養成課程を持つ大学院にとっては,「大学院生の実習」について,いろいろな立場から実習で必要な事項を整理し,学生へのサポートを行っていま す。多くの大学院生は,実際の現場との繋がりがなく,未知の現場での実習にさまざまな不安を持っています。そうした実習の場に学生が赴く前段階で,最低限 の座学の延長として「実習先が実習生に知っておいてもらいたい」と考えておられる内容を整理したものです。

この「臨床心理実習マニュアル」は,臨床心理士養成の大学院として龍谷大学に設置されていました「臨床心理学領域(2012年度より,臨床心理学専攻)」での大学院生の実習のために,2007年に作成した学内での冊子が基本となっています。
ご存じのように,大学院での臨床心理士養成の実習は,(財)日本臨床心理士資格認定協会の規定したカリキュラムとして「内部実習(大学内に設置した相談室 における実習)」と「外部実習(学外の医療・福祉・教育機関における実習)」があり,大学院生はその実習の基礎教育を受けることとなります。しかし,実際 の現場経験のない大学院生に,かつ実際の臨床経験もない彼らにとって,「基本的な考え方として,何を実習の前に学ぶべきか」,全く五里霧中の世界となって いました。また,それぞれ臨床におけるオリエンテーションに違いのある教員にとっても,どこまでのことを事前に獲得しておくべきかについて,基本となるガ イドラインがなかったことも,院生の困惑を助長していたようです。
そこで学内の冊子として「実習マニュアル」の作成を行ったのですが,内容の選択から多くの戸惑いがありました。実習に赴く大学院生は,いずれもが(財)日 本臨床心理士資格認定協会が実施する「臨床心理士資格認定試験」を受験する存在であること,その試験に向けた実習であるべきであることを考えた場合,試験 に対応することと,実習での実りある学習のため,項目を選択するために多くの労を要しました。

本書では,学内者向けに記載していた内容を整理し,第一部でその要点を整理し直しています。その内容(学内実習施設の名称が「臨床心理相談室」では なく学内の呼称として用いられている「クリニック」のまま)は,本学特有の部分もあると思いますが,現場経験のある修了生にとっても役立つように,基礎的 な自己研鑽のガイドラインとなっています。臨床心理学的実践においては,多様なオリエンテーションが存在するとともに,多様な現場があり,それぞれに臨床 心理士に対する要請は異なるものとなっています。それらに共通する基本の中の基本ともいえる部分だけを取り出し,整理した内容がこの第一部になっていま す。
この部分の原稿は,共編者の友久久雄が音頭をとり,森田喜治,滋野井一博,小正弘?コ,島田修,吉川悟が作成したものを編者が大幅に修正しており,編著者に掲載していない島田修先生には,改めてお詫び申し上げたいと思います。
また,第二部は,本来の学内版にはない項目を,本書のために追記した内容です。学生が実習先で出会うであろういくつかの疾患について,基本的な立場からの 解説を行っています。ここでは疾患や行動障害だけではなく,事例の理解に結びつくためのクライエントの背景にある家族に対するアセスメントを含めていま す。これは,ここの疾患特性を理解するためのガイドラインはいくつも存在していますが,実質的な事例を理解し対応するために必要ことは,現場で要請される クライエントからのさまざまな訴えをどのように把握しておくべきか,日常的な影響を与えている家族をどのように面接の中に位置づけるべきか,そして,事例 の全体像をどのように理解すべきかなどを示しています。
この部分の担当者は,前出の著者に加え武田俊信を加えており,本書の奥付に担当者を記載させていただきました。これだけの内容で充分なものではありませんが,あくまでも基本的なことについては,充分理解できるようになっています。
加えて,実習に赴く予定になっている学生には,それぞれの現場ごとの違いを把握するために,それぞれの現場の特徴を把握しておく必要があります。そのため のガイドラインとしては,拙著(『システム論からみた援助組織の協働,組織のメタアセスメント』金剛出版)を参照していただければ,それぞれの現場の特徴 や,現場ごとの独自の視点が把握できると思います。

臨床心理士に対する期待がいろいろな社会的な場面で高まるとともに,日本臨床心理資格認定協会が述べる「専門職」という立場に求められているのは, 医師にとってのインターンと同様なほどの,多様な現場での実習経験を積み重ねることであり,それを自己研鑽によって「専門性」を高めることに尽きるかもし れません。しかし,どのように高度な「専門性」を持った臨床心理士であっても,その最初の一歩では,必ず本書にあるような基本の基本とされる内容を実践の 中から教えを請い,経験として自らが整理し,自らの「専門性」を日々向上させてきた結果に過ぎません。
もしも本書を手にされるのであれば,未知なる臨床心理学の実践的な実習の場で何が求められているのかを知るとともに,自らのこれからの実習での迷いを払拭 するための一助となることを期待します。そして,本書の中に含まれている「臨床心理士としての専門性」について,今以上の自己研鑽の一助となればと考えて います。

最後に,遅々として進まない本書の編集を引き受けていただいた遠見書房の山内俊介氏に,心からお礼申し上げたいと思います。

編著者を代表して 吉川 悟


編者・著者略歴

編著者
友久久雄(ともひさ・ひさお) 重症心身障害施設枚方療育園医長,京都教育大学教授を経て,2002年より現職。西本願寺派の僧籍を持つ精神科医。専門は,子どもの精神科および仏教とカウンセリング。著書は「仏教とカウンセリング」(法蔵館)など。

吉川 悟(よしかわ・さとる) 私設心理療法機関であるシステムズアプローチ研究所,コミュニケーション・ケアセンターなどを経て,2007年より現職。専門はシステムズアプローチ。著書は「家族療法」(ミネルヴァ書房)など。

執筆者
森田喜治(もりた・よしはる) 20年間,児童養護施設で生活する被虐待児,家庭崩壊にあった子どもたちの心理治療を経て,2003年 より現職。専門は,被虐待児,施設入所児童の心理治療,コンサルテーション,子どもの遊戯治療。著書は「児童養護施設と被虐待児」(創元社)など。(第2 部10,11章担当)

滋野井一博(しげのい・かずひろ) 聖マリア養護学校,城陽市立心身障害児母子通園施設ふたば園を経て,2007年より現職。専門は特別支援臨床。著書は「発達障害入門」(ミネルヴァ書房)など。(第2部4,6章担当)

武田俊信(たけだ・としのぶ) 大学病院精神科,精神科病院,療育センターなどを経て,2010年より現職。専門は発達障害。訳書に「成人のADHDに対する認知行動療法」(金剛出版)など。(第2部2,3章担当)

小正浩徳(こまさ・ひろのり) 公立適応指導教室,大学院附属臨床心理相談室を経て,2012年より現職。専門は不登校や発達障害の子どもとその家族への心理的支援。共著に「システム論からみた援助組織の協働」(金剛出版)など。(第2部7,8章担当)

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