子ども支援のためのポリヴェーガル理論実践ガイド──「3色マップ」を教育と支援にいかす
子ども支援のためのポリヴェーガル理論実践ガイド──「3色マップ」を教育と支援にいかす
| 著者 | 三浦大卓 |
| 出版年月 | 2026年7月 |
| ISBN 図書コード | 978-4-86616-251-5 C0011 |
| 判型 | A5判並製 |
| ページ数 | 122(オールカラー) |
| 定価 | 2,500円(+税) |
内容紹介
ポリヴェーガル理論をつかった「3色マップ」は,直感的にわかりやすく,安全で,支援者,教職員,家族など,だれでも使える子どもの支援法です。この本はそんな3色マップと,その使い方,そして子ども支援のために大人たちが何ができるのかを考えた本です。
感情的になりすぎてしまう子ども,ふさぎこんでしまいやすい子ども,よくかんしゃくを起こす子ども……学校で,支援の場で,子どもたちの間で,おうちで,どの子どもも一生懸命に生きているのにうまく行かない。そんなときにポリヴェーガル理論と,そこから生まれた3色マップが役に立ちます。
福祉と心理臨床の現場から生まれた3色マップを片手に,子ども支援の旅に出ましょう。
主な目次
はじめに
第1章 ポリヴェーガル理論と3色マップの眺め方
子ども支援の旅へ,安全に出かけよう
「ポリヴェーガル理論」で日常を見てみたら
交感神経系,背側迷走神経複合体,腹側迷走神経複合体
活性化を表す「赤」,そして「緑赤」へ
沈静化を表す「青」,そして「緑青」へ
凍りつきの「青赤」,そして「トラウマ」という視点
無理して合わせる迎合反応,「偽りの緑」
安全・安心の土台になる「緑ベースの三角形」
第2章 3色マップの使い方と会話の例
導入に際して
基本的な使い方
3色マップを用いた会話や支援の例
第3章 子どもの成長を支えるためのいろんな「工夫」
みんな,どうやって工夫してる?
見て,触れてわかるって,とっても安心
棒人間と吹き出しでつながる「コミック会話」
絵文字文化の日本で進化? 「表情カード」
「温度」というわかりやすいメタファー「怒りの温度計」
どんな気持ちも大切に『気持ちの本』
縦軸と横軸だけでは表現しきれない「ブレンド」や「迎合」
「迎合(Fawn)」の表現をめぐって
ポリヴェーガル・インフォームド・アプローチの可能性
第4章 「あいだ哲学」「交通論」の視座から
「あいだ」としての関係性の捉え方
生と死
「衰退のエネルギィ」と生死間─永田耕衣の句から
「まぶさび」と「緑ベースの三角形」
本の中に「安全な異世界」を見つけた少女
不調や回復のプロセスには道のり(交通)が存在する
子ども支援における交通論的視点
大人同士の対立は,異交通の扉をひらくチャンス
身体と「主体」の交通様態
「ニューロセプション」×「主体」×「交通論」の統合イメージ
第5章 支援者の声,そしてツールとしての限界と進化
支援者へのアンケートから見えること
実際に活用した支援者からの報告
3色マップの限界
感情や思考,感覚の複雑さを単純化しすぎることのデメリット
3色マップの応用とツールとしての進化
授業での導入案:「気持ちの島めぐり」(小学校高学年向け)
学習脳とサバイバル脳
「デジタル版3色マップ」の構想
あとがき
はじめに
子どもの支援をしている心理職は,よりよい支援ができるよう相談の中で使う資料を日々準備しています。子どもたちが安心して過ごし,心穏やかで自分らしくいられるよう,一人ひとりに合わせた工夫をします。私もそんな心理職のひとり。精神科病院やスクールカウンセラー,児童相談所,特別支援教育の相談機関等で働いてきました。この歩みをはじめて20年になります。
支援の現場では,担当する子どもが不安定になったり,感情のコントロールが難しくなったりする姿に直面することが少なくありません。そんなとき,子どもたちにどうやって寄り添い,安心へと導いていけばよいのか。また,保護者や支援者にはどのような助言をすればよいのか。そんな問いに対するひとつの答えとして,この本では「3色マップ」という支援ツールをご紹介します。
3色マップは,ポリヴェーガル理論という自律神経系の考え方に基づいて開発しました。子どもの心や身体の状態を視覚的に理解し,安心へと導くための実用的なマッピングツールです。赤,青,緑の3色で表現されたマップは,子ども自身が自分の状態を把握しやすく,大人との共有もスムーズに行えるよう工夫されています。たとえば,子ども自身が,「昨日ケンカしちゃったときは赤の気持ちが強かったな」と言葉にすることで,自分の内面を表に出しやすくなり,それを聞いた大人もその状態に応じたかかわり方を選びやすくなります。
このツールは,心理職や相談機関の職員だけでなく,保護者のみなさん,入所施設の職員,教職員,養護教諭,地域で子ども支援に携わる方など,子どもにかかわるすべての方に使っていただけるようデザインしています。一見すると難しく感じられるポリヴェーガル理論を易しくかみくだき,日常の中で自然に使えるようにすることを目指しました。
ポリヴェーガル理論は,アメリカの精神生理学者スティーブン・ポージェス博士によって1994年に提唱されました。生物の進化の歴史をたどり,人間の自律神経系がどのように安全・危険を検出し,それに応じて行動や感情が変化するのかを説明したのです。「闘争・逃走反応」や「凍りつき反応」,「シャットダウン反応」に加え,「社会的交流を求める反応」が人間の神経系に組み込まれていることを示した点が特徴です。
この理論では,自律神経系を3つの状態に分類します。
・ 交感神経系:危険な環境での闘争・逃走反応が活性化される状態(可動化)。怒り,興奮,警戒,不安,過敏などが見られる。
・ 背側迷走神経複合体:極度のストレスや脅威により,神経系が凍りつき,シャットダウンする状態(不動化)。無気力,引きこもり,解離などが見られる。
・ 腹側迷走神経複合体:環境や関係性に安全を感じ,安心してつながることができる状態(社会的交流)。落ち着き,好奇心,協調性などが見られる。
この3つの状態は,気分や思考としてではなく,神経系の働きによって生じる生理的,自動的,反射的な反応とされています。つまり,子どもが「固まる」「黙り込む」「落ち着かない」「すぐ怒る」「指示が入りにくい」といった行動を見せるとき,それは意思や性格の要因だけではなく,神経系が危険や脅威を検出しているサインかもしれないのです。
ポリヴェーガル理論は,欧米ではトラウマ治療やボディワーク,教育,福祉の分野で広く応用されてきましたが,日本ではまだ比較的新しい理論です。しかし近年,心理臨床や教育現場で注目され始めており,特にトラウマ・インフォームド・ケアや発達支援の文脈で取り入れられるケースが増えています。
2019年8月,私はポリヴェーガル理論に初めて出会いました。日本における第一人者,津田真人さんのセミナーに参加したのです。生物の神経系が成熟を遂げる何億年もの長い長い旅路に触れ,その奥深さと臨床活用の可能性に強く惹かれました(津田,2019,2022)。
学びを深めているうちに,私と同じようにポリヴェーガル理論に感銘を受け,臨床活用に向けてすでに動きはじめている支援者が全国にいることを知りました。まさに,腹側迷走神経複合体の中に交感神経系がほどよく混ざり合ったような,ドキドキ,わくわくした気持ちで全国の支援者のみなさんとつながり,ツール作成のアイデアを膨らませていきました。赤,青,緑の3色で自律神経系を表現し,素敵なイラストとともにポリヴェーガル理論の理解を深めてくださったのは,カウンセリングルーム・アイバランスの四葉さわこさんです。
さて,この本の第1章と第2章では,いますぐに3色マップを使ってみたいという人向けに,3色マップの眺め方や使い方から記しています。このツールの基本的な考え方,具体的な使い方,家庭や支援の現場での会話例について丁寧に紹介します。巻末には3色マップ(日本語版・英語版・イラスト無し版・ぬり絵版)とワークシートのダウンロードについて説明がありますのでご確認ください。
なお,本書はポリヴェーガル理論をベースに話を展開していますが,私なりの言葉や解釈で語り直している内容が含まれています。ポリヴェーガル理論のすべてを解説するものではないことをご留意ください。
子どもの支援にかぎらず,対人援助のプロセスはよく山登りに例えられます。支援者はその道のりの案内人でもあり,同行者でもある旅の仲間です。今ここにいる足元を見つめ,目指す方向へと目をこらし,そのあいだに広がる道をいっしょに歩いていく。ときには迷って,ときには立ち止まりながらも,「ここからそこへ」と安全なプロセスを共にする営みです。
この3色マップは静かな地図というより,生きて動いているものです。人が状態と状態のあいだを行き来する,その交通の様子がマップの上に軌跡となって残されていくのです。第4章では,哲学者・篠原資明さんが語るあいだ哲学,交通論の視座から,3色マップを読み解きました。ポリヴェーガル理論と交通論をかけ合わせた論考は,おそらく初めての試みとなります。世界は固定された点ではなく,点と点のあいだにこそ意味があるとされています。その「あいだ」とは,どこかを目指して歩くことで見えてくるものです。行ったり来たりする中で,新しい気づきが生まれたり,戻ってこられないほど深く踏み込んだりもします。赤,青,緑,この3つの色のあいだを旅することは,問題の解決をただ示すものではなく,自分自身や誰かとの関係性が変容し,新しい何かが生成される道のりでもあると思うのです。
3色マップをただの支援ツールとしてではなく,「心と身体をめぐる旅を記録する地図」として捉えてみてください。この本が,子どもとの関係づくりに悩む方々のヒントとなり,日々の支援や育児に少しでも役に立てれば幸いです。そして何より,「安心」という言葉が,子どもたちの毎日の中に少しでも増えていくことを心から願っています。
三浦大卓
著者略歴
三浦大卓(みうら・ひろたか)
臨床心理士,公認心理師,米国Somatic Experiencing®認定プラクティショナー。
秋田大学大学院心理教育実践専攻修士課程修了後,精神科病院,スクールカウンセラー,児童相談所,特別支援教育の相談機関等に心理職として従事している。
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