公認心理師の基礎と実践㉓ 関係行政論 第2版

公認心理師の基礎と実践㉓ 関係行政論 第2版

野島一彦・繁桝算男監修  (帝京大学)元永拓郎編・(法律監修)黒川達雄

2,800円(+税) A5判 並製 256頁 C3011 ISBN978-4-86616-105-1

心理学およびその周辺領域の知識を網羅
公認心理師カリキュラムに沿った全23巻シリーズの第23巻「関係行政論」 改訂第2版!

公認心理師養成のための臨床心理学分野のテキスト。元永拓郎先生(帝京大学教授)の編による1冊です。関係行政論とは,法と制度のこと。本書は,心理師に絶対に必要な法と制度の知識をまとめたものです。2020年3月末時点の最新の法改正を反映した改訂第2版。必読必携です。

第3版(最新版)が刊行されています


目次

第1部 心理支援と関係行政論
第1章 法・制度の基本と公認心理師
元永拓郎
第2章 公認心理師の法的立場と多職種連携
元永拓郎
第3章 公認心理師の各分野への展開
元永拓郎

第2部 心理支援と法律・制度
第4章 保健医療分野に関係する法律・制度(1) 医療全般
大御 均
第5章 保健医療分野に関係する法律・制度(2) 精神科医療
林 直樹
第6章 保健医療分野に関係する法律・制度(3) 地域保健・医療
小泉典章
第7章 福祉分野に関係する法律・制度(1) 児童福祉
菅野 恵
第8章 福祉分野に関係する法律・制度(2) 障害者・障害児福祉
米山 明
第9章 福祉分野に関係する法律・制度(3) 高齢者福祉
小野寺敦志
第10章 教育分野に関係する法律・制度(1) 基本編
佐藤由佳利
第11章 教育分野に関係する法律・制度(2) 心理支援編
佐藤由佳利・元永拓郎
第12章 司法・犯罪分野に関係する法律・制度(1) 刑事
福田修治
第13章 司法・犯罪分野に関係する法律・制度(2) 家事
町田隆司
第14章 司法・犯罪分野に関係する法律・制度(3) 少年非行
渡邉 悟
第15章 産業・労働分野に関係する法律・制度
北村尚人
第16章 法律がいのちの輝きをささえるために──心の健康・障害・多様性・危機をふまえて
元永拓郎


はじめに

この第23巻「関係行政論」は,公認心理師として社会において活動する上で必要となる施策や法律,制度,そしてその基盤となる考え方について理解を深めていくことを目的とする。行政や法律,制度というと,難しくて近寄りがたいとの印象を持つ者も多いと思う。しかしながら,そもそも法律や制度があるのは,国民の幸せのためである。その幸せのために私たちが大切にするべき価値とは何なのか,その議論の積み重ねが,法律の条文に反映されることになる。
実際,21世紀に入って,インターネット等によって国民からの立法や行政へのアクセスが格段に容易になった頃から,成立する法律の条文が,本質的な内容をわかりやすく表すようになってきた。特に心の支援に関する重要な法律群は,20世紀の最後の10年あたりから多彩さを増しているのであるが,これはもちろん心の健康に関する課題の複雑さを反映していることにもよるけれど,心の支援の深い部分を共有したいという国民の願いの高まりも背景にあるのだろう。
そのような時代において,いよいよ公認心理師法という心の支援に関する専門家養成および質の保持を目的とした法律が成立し,臨床実践の心理学を熟知した公認心理師が,社会に位置づけられることとなった。これまでは臨床心理士等の資格者が,社会における心の支援に大きな貢献をしてきた。その豊かな実績も踏まえながら,いよいよ本格的に,心の支援を,さまざまな分野を横断的にとらえながら,未然防止や緊急の局面など,さまざまな段階に応じて活動できる,国家資格としての心理職が誕生することとなった。
心の支援は公認心理師が行う活動のみではない。すでにさまざまな場で,多職種の専門家や,地方公共団体,国,そして国民ひとりひとりの願いと活動によって,心の健康の保持,増進はなされてきている。この「関係行政論」では,そのような多様な人々の活動の基盤となる仕組みやルール,取り組みの歴史的経緯などを,科目名にある「行政」の活動にとどまらず,広く法律や制度の紹介を通して明らかにしていく。
これらを整理すると,以下の6点が「関係行政論」科目の目指す到達点となる。

①心の支援に関する全体像を,法律や制度の観点から把握し,国民からの期待や社会的使命を自覚できる。
②公認心理師が活動する上で出会う,特に5分野における法律や制度を把握し,具体的な役割を認識できる。
③公認心理師が重要かつ難しい臨床判断をする上で,必要な法律や制度の知識や理念を有効に活用できる。
④法律や制度の知識や制度を活用し,多職種の専門家や行政,国民と,意義深い協働をすることができる。
⑤リスク管理や安全配慮に関する法的考え方を通して,要支援者の安全や安心を確保し,かつ周囲の人や支援者自身のリスクを回避または軽減する。
⑥現状の法律や制度を熟知した上で,心理学的支援の本質である,要支援者への心情や自己決定への寄り添いを,支援のコアなものとして深く認識できる。

これらの目標は,学部の「関係行政論」の授業のみで到達するのは不可能である。「関係行政論」の学部授業において①から⑥に関連する基本的知識を習得した上で,実践現場での応用や臨床に即した深い理解を,大学院(または実務経験)において深める必要がある。特に大学院の実習においては,目の前で起きる事象にのみ着目するのではなく,その事象を俯瞰する法律や制度,多職種連携の共通理解としての法的考え方,安全配慮に関する法律や制度の具体的運用などについて,実習担当教員や実習指導者,実習生が,相互に充分に議論し,授業で学んだ知識を,使えるものへと活性化させたい。そして,現状の法律や制度では不充分な課題を見出し,立法や行政への働きかけを行う方法についても,これからの実践活動の中で,自ら考え行動していく基盤を作っていってほしい。以上の理由から,本巻は大学院生や実務経験者にも手に取って参照してほしい。
各執筆者は,法律の専門家ではなく,各分野で臨床実践を積み重ねてきた心の支援の専門家である。現場において法律や制度がどのように役立つか,そして法的考え方を通して支援をどう効果的に展開していくかについて,知り尽くしている実践家である。法律になじみのない初学者でもわかりやすく読めるよう,時には具体的な事例にもふれていただいている。諸先生の現場重視のそして支援の対象者や国民の幸せを考え抜く姿勢からも多くの学びを得ることができるであろう。
法律に関する考え方や表現,解釈においては,弁護士の黒川達雄先生に法律監修として,原稿全てに目を通していただいた。しかしながら本書の内容に関する最終的な責任は,編者の私にあるのはもちろんである。
この本が,公認心理師としての活動を意義深いものとし,国民の心の健康の保持増進,そして幸せの追求に少しでも貢献できれば幸いである。

2018年5月
元永拓郎

第2版刊行にあたって

2018年5月に,第23巻「関係行政論」が刊行され,約2年が経過した。この間に第1回,第2回の公認心理師試験が行われ,36,438人が合格し,2019年12月末時点で34,170人が登録し公認心理師として活動を始めることとなった。
国民の心の健康の保持増進に関係する法律や制度についても,この2年間にさまざまな変更や新たな動きがあった。公認心理師がさまざまな施策において少しずつではあるが着実に役割を担ってきている状況を,本書を通じて把握していただければ幸いである。
本巻は,16章で構成している。まず日本国憲法から各種法律,司法や立法,行政の仕組みなどを第1章で概観し,公認心理師として活動することの基本的意義や社会全体での位置づけなどの考えを耕したいと思う。第2章では,公認心理師法の立法経緯やその後の行政の動きや社会全体へのインパクトを概観し,公認心理師の基本姿勢や倫理にふれるとともに,他職種との関係について述べる。第3章では,いわゆる5分野での法律的知識を横断的に概観する。第4章からは,分野ごとに制度や法律を説明する。まず保健医療分野については第4章において医療一般にふれ,第5章では精神科医療に関して論じる。第6章では,地域保健や地域医療に関して,近年の重要なトピックスも含めてふれていく。福祉分野については,福祉全体の外観と児童について第7章,障害児および障害者について第8章,高齢者関係を第9章とした。教育や学校分野に関する事柄は第10,11章にまとめた。
司法・犯罪分野については,司法の全体像および刑事関係を第12章,家事関係を家族支援に関係する法律知識も含めて第13章,少年法関係を第14章とした。産業・労働分野については第15章にまとめた。そして各章では扱いきれなかったテーマや,分野を横断する施策,立法的対応が遅れている事項,法律自体が抱えている課題について,「法律がいのちの耀きをささえる」として第16章に整理した。
昨今の新型コロナウイルス感染症による影響は,まさに健康の保持増進のための制度を大きく揺るがしている。心理専門職である公認心理師もまた,その影響をさまざまな形で受けながら活動しているであろう。公認心理師がこの局面でどのような役割を担い,そして心の健康を保つ支援をどう展開するか,皆さまの日々の実践の中から見出していただければと願ってやまない。

2020年4月
元永拓郎


編者略歴
元永拓郎(もとなが・たくろう)

者略歴
元永拓郎(もとながたくろう)
1963年,宮崎県生まれ,帝京大学文学部心理学科教授,帝京大学心理臨床センター長,臨床心理士。
1991年,東京大学大学院医学系研究科保健学(精神衛生学)専攻博士課程修了,博士(保健学)。1991年より,駿台予備学校,日本外国語専門学校で活動,帝京大学医学部精神科学教室助手,帝京大学文学部心理学科専任講師,准教授を経て,2013年から現職。
日本公認心理師協会常務理事,日本精神衛生学会常任理事,日本心理臨床学会理事。
主な著書:『心の専門家が出会う法律』(共著,誠信書房,2003),『受験生,こころのテキスト』(共著,角川学芸出版,2006),『新しいメンタルヘルスサービス』(新興医学出版,2010),『明解!スクールカウンセリング』(共著.金子書房,2013),『学校メンタルヘルスハンドブック』(編集委員・日本学校メンタルヘルス学会編,大修館書店,2017)

黒川達雄(くろかわたつお・法律監修)
黒川達雄法律事務所所長・弁護士

 

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