公認心理師の基礎と実践⑳ ――産業・組織心理学

公認心理師の基礎と実践⑳
――産業・組織心理学

野島一彦・繁桝算男監修
(神奈川大学)新田泰生 

2,600円(+税) A5判 並製 220頁 C3011 ISBN978-4-86616-070-2

産業・労働分野における心理支援
公認心理師の必須の知識を学ぶ
産業・組織心理学の入門書

産業・労働分野における心理支援のために,企業・組織の成り立ちや個人と組織の関係,その背景にある経済・産業の動向,労働関連法規の基礎知識などを学ぶ,産業・組織心理学の入門書。


目 次

第1部 働くことを考える
第1章 産業・組織心理学の意義と方法
(神奈川大学)新田泰生
第2章 産業組織とは
(元法政大学)桐村晋次
第3章 組織における人間の行動―仕事へのモチベーションとリーダーシップ
(帝塚山大学名誉教授)森下高治・(医療法人養心会国分病院)小畑周介
第4章 働くことと法
(鳥飼総合法律事務所)小島健一
第5章 ワーク・ライフ・バランスとキャリア形成
(名古屋大学)金井篤子
第6章 産業臨床心理学の視点から
(桜美林大学)種市康太郎
第7章 産業保健の視点から
(慶應義塾大学)島津明人・(国立がん研究センター 社会と健康研究センター)小田原幸

第2部 働く人への支援
第8章 従業員支援プログラム(EAP)
(一般社団法人国際EAP協会日本支部)市川佳居
第9章 組織へのコンサルテーションと心理教育―職場のメンタルヘルス対策における理論と実際
(東京理科大学)松浦真澄
第10章 復職支援―働くための能力の回復を目指す職業人への全人的支援
(杏林大学)中村美奈子
第11章 再就職・障害者就労における心理支援
(帝京平成大学)馬場洋介
第12章 職場でのトラウマケア
(カウンセリングオフィスつながり)藤原俊通
第13章 産業心理臨床における心理療法1―認知行動療法,アクセプタンス&コミットメント・セラピー
(株式会社アドバンテッジリスクマネジメント)土屋政雄
第14章 産業心理臨床における心理療法2―ブリーフセラピー
(島根大学)足立智昭


はじめに

我が国の産業・組織心理学会の設立趣旨には,個々人および集団が人間の可能性を基盤として成長し,効率的であると同時に健康的かつ生きがいのある組織を形成し,心と行動の総合体として作業を遂行し,文化的生活者として消費することのできる条件を探究すると述べられている。
産業・組織心理学における公認心理師の業務は,国民が「働くこと」に関連した多種多様な心理学的支援の理論の研究と実践である。その心理学的支援を実施するには,本書の各章にあるように,さまざまな課題があり,そこに産業・組織心理学を学ぶ意義がある。公認心理師の心理学的支援が行われる組織・職場への認識を持つだけではなく,その背景にある経済・産業の動向,個人と組織との関係も学ぶ。
公認心理師の心理学的支援を考えた時,中でも個人と組織との関係は,充分に検討されなければならない。組織は,時に権力的に,自己利益に走りがちである。昨今の各国における自国利益第一主義もその現われである。そこでは,自己組織利益のために,個人の諸権利は抑圧される。また特定の弱者は,スケープゴートとして象徴的に攻撃対象となる。組織が自己利益第一主義に走る時は,法律を無視して,規則を破り,ファシズム化しがちである。
我が国においては,企業のコンプライアンス違反,官庁の忖度による政権への迎合,果ては運動部のパワハラによるボス的な集団支配まで,集団の自己利益のために,個人に法律・規則を破る自己犠牲を求める組織風土が存在する。特に我が国の産業界においては,他国に類を見ない「過労死」という組織が個人に自己犠牲を強いる象徴的現象がある。また,ブラック企業においては,組織利益のためには,法律は破られ,若者の健康等の諸権利は否定される。もし過労死を黙認して,あたかも文化的にやむを得ない犠牲とみる風潮が日本文化の深層心理にあるとしたら,そこに日本の強圧的集団主義・集団規範の異常さがある。過労死,ブラック企業,企業のコンプライアンス違反,忖度による権力への迎合等を総合的に考察すると,我が国は,欧米に見られるような「自立した働く個人」をいまだに実現できずにいる。我が国においては,働く個人の自立が今後も目指されなければならない。
公認心理師は,上記のような,さまざまな深刻な労働諸問題を背景として,個々人の触れると血があふれでるような生々しい心理的傷口をアセスメントし,その心理学的支援を行い,関係者への調整支援と共に,健康的かつ生きがいのある組織形成に少しでも寄与するという困難でありながらも意義深い仕事を目指す。
本書は,公認心理師養成のテキストという趣旨に基づき企画され,その企画趣旨に基づく編集方針によって執筆された産業・組織心理学である。第1部では,働くことを全般的視野から概説する。上に述べたように,働く個人が自立するためには,労働に関する法律の学習は重要である。よって本書では特別に紙数を割くことにした。第2部の働く人への支援は,公認心理師の業務に関係する最先端の支援を選択し,概観している。公認心理師を目指す読者のお役に立つことができれば幸いである。

2019年7月
新田泰生


編者略歴
新田泰生(にったやすお)
早稲田大学大学院文学研究科修士課程心理学専修修了。日本人間性心理学会常任理事,日本産業カウンセリング学会理事,日本臨床心理士会産業領域委員長,日本臨床心理士会理事を歴任。桜美林大学大学院教授を経て,現在は,神奈川大学大学院人間科学研究科臨床心理学研究領域教授。公認心理師。臨床心理士。
主な著書:『心理職の組織への関わり方―産業心理臨床モデルの構築に向けて』(編著,誠信書房,2016年),『人間性心理学ハンドブック』(分担執筆,創元社,2012年),『実践入門産業カウンセリング』(分担執筆,川島書店,2003年),『講座臨床心理学6社会臨床心理学』(分担執筆,東京大学出版会,2002年筆),『産業カウンセリングハンドブック』(分担執筆,金子書房,2000年)ほか

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