公認心理師の基礎と実践➈――感情・人格心理学

公認心理師の基礎と実践➈
――感情・人格心理学

野島一彦・繁桝算男監修
(広島大学)杉浦義典 編

2,600円(+税) A5判 並製 200頁 C3011 ISBN978-4-86616-059-7

感情と人格(パーソナリティ)を
深く理解するために

将来,臨床の現場に出たときにクライエントを理解する助けになる知識が身につくことと,卒論や修論を書く助けになることを目指した,使い込むためのオールマイティな教科書。


目 次
序章 感情・人格心理学を学ぶということ
(広島大学)杉浦義典
第1部 感情に関する理論及び感情喚起の機序
第1章 動機づけ
(専修大学)国里愛彦
第2章 基本感情
(青山学院大学)坂上裕子
第3章 感情と認知的評価
(東海学院大学)長谷川晃
第2部 感情が行動に及ぼす影響
第4章 ポジティブ感情の効果
(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター)伊藤正哉
第5章 ネガティブ感情の効果
(同志社大学)及川昌典
第6章 社会を支える感情
(北海道大学)高橋伸幸
第7章 感情調整
(富山大学)佐藤德
第3部 人格の概念および形成過程
第8章 人格の遺伝
(国士舘大学)川本哲也
第9章 人格の社会・進化的要因
(広島修道大学)横田晋大
第4部 人格の類型,特性等
第10章 特性論
(群馬大学)山口陽弘
第11章 類型論
(福島県立医科大学)竹林由武
第12章 人格と病理
(立正大学)高比良美詠子


はじめに
本書は,感情心理学とパーソナリティ心理学のテキストである。学部の専門科目である「感情・人格心理学」の教科書としての利用をおもな用途と考えている。同時に,卒業論文を執筆中の学部学生や大学院生の方など,心理学の学習のより進んだ段階の人にも,復習やさらなる学習のために用いることができるようになっている。もちろん,公認心理師の資格試験を受験するときにも使っていただける。資格試験を受験するときは,おそらくはすでに現場で多忙な日々を送っているであろう。一夜漬けで暗記することにも限界を感じるころかもしれない。そんなときにこそ,本書は助けになるはずである。本書は何よりも考えて理解することを重視している。そのように知識の基盤を固めたら,あとは事項の暗記は通勤電車の中やトイレの中ででも構わない。それまでばらばらだった事項を整理するプラットフォームがあれば,暗記の負担は大幅に減少する。
学びは続くものである。本書はその時々に見直していただくことで,そのときに応じた学習効果があるようになっている。このように自信をもってお勧めできる理由は,本書のすべての章が,感情や人の個性(パーソナリティ)を理解したいという問題を設定し,それを解決しようとする営みを紹介する,という視点で書かれているためである。第一線で研究をされている先生方に執筆をお願いした。日々,研究という問題解決に励まれているなかから執筆いただいたことで,自然にそのようなものになっている。学習する方にとっても,問いをもちながらテキストや講義に向き合い,理解できた,という体験を経た知識は,定着しやすく,さらに新しい知識を吸収する基盤ともなる。
使いながら学ぶ
序章に本書を理解するためのヒントや本書の見取り図をくわしく述べてあるため,はじめには最小限にとどめようと思う。ただ,1つだけ,ここで学ぶ人へメッセージを送るならば,ぜひ知識を使いながら学んでほしいということである。
感情心理学とパーソナリティ心理学はともに臨床心理学の基盤となっている。臨床現場で働いている方も,本書を読んでいただければ,目の前のクライエントを理解するための助けとなるであろう。多数の参加者を対象とした実験や調査から導出された感情心理学やパーソナリティ心理学のモデルは,機能分析やケースフォーミュレーションを行うためのガイドとなる。
また,卒業論文や修士論文で,調査データを扱うことは多いだろう。いろいろな質問紙があるのだけれど,どれを使うとよいのか。あるいは,発表会で先生に分析について質問をされたのだけれど,どんな意図があるのだろうか,どのように答えたらよいのか。たとえば,2つの尺度の関連をXがYに影響するというモデルで分析したところ,「YからXに影響するではないのか」という質問を受けた。じつは,このような議論はその場で思いついた印象ではなく,感情やパーソナリティの理論,さらにそれらに共通する「原理」に基づいていることが多い。その原理がわかれば,議論も実り多いものになる。学位論文の執筆に限らず,臨床現場では心理学の専門家にデータの解析や,アセスメント法についての相談がなされることも多い(意外と知られていないことだが,医療現場では「心理の人=統計のできる人」というイメージをもたれることが多い)。
公認心理師の資格試験が施行され,試験対策の書籍もいろいろ登場している。どの本なら信用できるか。それらを読んでもよくわからないときにどうするか。ネット上の知識も,暗記用の教材もそれ自体がよいとも悪いともいえない。ただ,有用性や信憑性にばらつきが大きく,信頼できるものであってももともと用途が限られているというだけである。本書で培った知識があれば,多数存在する「断片的な情報」もそれなりに有効に利用できるようになるであろう。
最後に,理解することに重きをおいた本だからできることをもう1つ。たとえば,心理学は教養科目だけのつき合いという学生や読書好きの方が楽しむための本としても適している。グループディスカッションの教材としてもお勧めだ。たとえば,最近ある自治体では条例でゲームをやっていい上限時間を決めたという。その是非はいかがなものであろう? このような社会的な問いに答えるためにも役立つだろう(ヒント:第4章)。
このような問いに答えることは,公認心理師としての社会貢献にも応用できる。もちろん,実践の場でクライエントから問われることもある。たとえば,次のような問いである。

・**(診断名)は遺伝のせいなのですか,育て方のせいなのですか,治らないのですか
・他の病気ではなく,なぜうつ病になるのですか

素朴な問いこそ最も答えるのが難しくもあり,またそれに答えたいという気持ちが,専門家として心理学を社会に還元しようとする動機の根底にあるのではないだろうか。ただし,くれぐれもすぐに答えようと焦らないようにしていただければと思う。これらの問いは,じっくり学ぶための長期目標である。
2020年3月
杉浦義典


編者略歴
杉浦義典(すぎうらよしのり)
広島大学大学院人間社会科学研究科准教授。
2002年,東京大学大学院博士課程教育学研究科総合教育科学専攻修了。博士(教育学)。

主な著書:『他人を傷つけても平気な人たち―サイコパシーは,あなたのすぐ近くにいる』(河出書房新社,2015),『アナログ研究の方法』(新曜社,2009),Relation between daydreaming and well-being: Moderating effects of otaku contents and mindfulness(共著,Journal of Happiness Studies, 2019)ほか

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