カルト問題、脱会と支援のために──人権救済、二世問題、こころの回復を考える
カルト問題、脱会と支援のために──人権救済、二世問題、こころの回復を考える
| 編者 | 日本脱カルト協会 |
| 出版年月 | 2026年8 月 |
| ISBN 図書コード | 978-4-86616-247-8 C0011 |
| 判型 | 四六判並製 |
| ページ数 | 176 |
| 定価 | 2,000円(+税) |
内容紹介
さまざまに形を変え今なお社会に潜む「破壊的カルト」。本書はカルト団体からの脱会やその後の支援に長年取り組んできた日本脱カルト協会の関係者による多様な「当事者」の視点から,カルトの最新実態とその対策に迫った渾身の一冊です。
巧妙なマインド・コントロールや人権侵害を行うカルトからの脱会と支援のためにどう取り組んでいったらよいのか。支援者たちの取り組みや,脱会者,家族,二世信者の心理,伝統宗教者の声を集め,その対策をまとめました。
また,旧統一教会の解散が正式に決定したことを受け,今後はその対応も求められるでしょう。当事者,家族,支援者,大学・教育関係者や学生相談,心理職などカルト問題に関わりある全ての人に役立ててほしい本です。
主な目次
第1部 カルト問題をどう理解するか―理論・背景・予防の視点
第1章 マインド・コントロール理解からのカルト被害対策 西田公昭
第2章 大学における偽装勧誘の現状と課題 太刀掛俊之
第3章 カルト問題と心理支援―カルトカウンセリングの観点から 平野 学
第4章 家族の苦悩と家族ができること 高杉葉子
第2部 当事者の経験から見えるもの―脱会と回復のプロセス
第5章 宗教二世がトラウマ治療を受けて気づいたこと―私は「世界の運命」を背負わされた子どもだった はじめ・まこと
第6章 脱会者の心理 匿名A
第7章 スピリチュアル系自己啓発カルト脱会者の体験から―人の心は簡単にあやつられる 山本ゆかり
第3部 宗教二世という構造的課題―社会・メディアの交差点
第8章 カルトの二世問題とメディア報道 鈴木エイト
第9章 難民化する「二世」たち 竹迫 之
第4部 宗教者はこの問題にどう向き合うか―沈黙から関与へ
第10章 浄土真宗の僧侶として子どもたちに、オウム元死刑囚の後悔の気持ちを伝えたい 平野喜之
第11章 これからの時代を担う若い僧侶の皆さんに対して願うこと 北條 悟
第12章 伝統宗教と新宗教の間 鈴木正一
第13章 カルト問題と伝統宗教教団―沈黙を越えて 溪 英俊
第5部 国際的視野から見るカルト問題―法・文化・越境する被害
第14章 諸外国におけるカルト関係での法制状況について 山口貴士
第15章 在韓日本人女性の苦悩と希望 川上靖恵
まえがき
本書は、「日本脱カルト協会」の創立三〇周年を記念して出版されました。一九九五年、当会の前身である「日本脱カルト研究会」が発足した背景には、「オウム真理教」が引き起こした一連の忌まわしき事件がありました。この団体は、宗教法人にもかかわらず、信者を心理的、経済的かつ社会的に支配して過酷な活動に従事させたり、信者やその子どもが虐待や暴力を受けたり、また他方では、欺瞞を用いて信者獲得の勧誘や活動資金の調達をしたりしました。そして挙句の果てには、教団は教祖の指示で批判的な弁護士一家をもろともに襲撃して殺害したり、また批判的な信者の家族も殺害し、さらに毒ガス兵器などを開発して多くの無垢なる市民を無差別に殺傷したりしたのでした。こんな残酷な事件が発覚した翌年の一九九六年には、教団は宗教法人としての解散命令を受けました。当会は、このようなあからさまな違法行為のみならず、社会的な議論となる行為が団体内で秘密裏に行われるために気づきにくいですが、さまざまな人権侵害をおこなう集団を「破壊的カルト」略して「カルト」と呼び、その対策を考える有志の会として発足したのです。
オウム真理教は特に過激で、破壊的カルトの典型といえますが、「世界基督教統一家庭連合」、二〇一五年までは旧称「世界基督教統一神霊協会」、通称「旧統一教会」もまた、その定義に当てはまる団体だといえましょう。この団体の問題発生はさらに遡り、当会が発足する以前の一九七〇年代の後半頃から、教団に入信した高学歴の若者が、突如として家族の関係を断ち、目指してきたキャリア計画を放棄したために、家族関係が崩壊しました。さらに教団に献身するようになった信者たちは、インチキ募金、霊感商法や高額献金、一方的に決められた合同結婚、違法な伝道といったさまざまに議論となる活動を善なる正義とみなして従事させられていたのです。一九八〇年代後半から、これらの問題をめぐって、長年にわたり、被害者や弁護士団体が民事訴訟を展開させましたが、行政府は、オウム真理教が一連の暴力的な事件を起こして注目を集めるようになって、その対応に追われたためか、この教団には特に対策をとらないままになっていました。そして、二〇二二年七月、ついに、その教団の熱狂的信者である母親をもつ山上徹也が、家族を崩壊させた教団への積年の恨みを晴らすべく、教団にエールを送っていた安倍晋三元首相を銃撃して殺害してしまったのでした。政府や法務省はこれを契機に、教団に対して調査を開始し、組織的で悪質で持続的な違法性が認定されると、二〇二三年に宗教法人としての解散命令の請求が行われ、裁判所の審理の後、二〇二六年六月に、その命令が確定されたのでした。
これらの二つのカルトは宗教団体でしたが、その他にも宗教とは限らず、カルトは、(セクトと呼ぶ)政治団体であったり、自己啓発団体であったり、企業やボランティア団体を標榜していることもあります。つまり現在のところ、他の特定の団体は、カルトである証拠が十分に集められず、見解が共有できていませんので、本書においては他の固有名称を挙げませんが、カルトの議論ある団体は国内にも数多く存在していたり、今後に発生したりする可能性が高いと考えています。なお先述したとおり、オウム真理教は解散命令を受けましたが、それから三〇年を経た現在もいくつかの別の団体名を称して宗教的な活動を続けています。またもう一方の旧統一教会は、もともと国内でさまざまな別称の団体を保持してきているし、本部が海外にあって世界的に支部を置いている団体なので、日本の宗教法人として解散しても、今後も教団活動は続けていくと予想されますため、当会は今後も引き続き、彼らのカルト活動には厳しく対応していく必要があると考えています。
ところで、そもそもカルトの本来の語源はラテン語の「cultus(崇拝)」であり、宗教学では、是非の評価は含まず、特定の対象への強い崇拝による熱狂的で実践的な宗教集団を意味していましたが、それが、一九七〇年代終わり頃から、一般には、法や道徳を逸脱するような過激な活動を背景に否定的な集団を指すようになりました。現在では、カルトは宗教団体とは限らず、先述したようなさまざまな目的を標榜する組織が見られ、その思想内容ではなく、団体内外に対する活動内容を注視する必要があります。カルトは集団の目標達成を絶対優先するために、メンバーやその子どもの私生活に干渉します。またカルトは、その達成のために、メンバーには団体への絶対服従を強いるのみならず、言論の自由を奪って批判を封鎖します。こんな反自由主義的な特徴がカルトにはあるのですが、メンバーの多くは、それらを了解した上で入会したのではなく、表層的な見せかけが偽装されて実際を知らずに入会し、団体リーダーの欺瞞に気づかないまま活動を管理されるのです。この集団メンバー管理の手法には、社会心理学的な影響力が巧みに使われており、俗に「マインド・コントロール」と呼ばれています。
さて本書は、カルト問題への対策として、現在の日本脱カルト協会では、どのような取り組みがなされているのかを示しました。実のところ、当会は、二〇〇九年に『カルトからの脱会と回復のための手引き』(遠見書房)を出版しました。その本では、カルト問題の全体系をかなり深く考慮して編集しましたので、お手に取っていただくと、カルトに関わるさまざまな人々にとって、まず知るべき全体が把握できるし、そこからの展望を開くためのガイドブックとなることを目指しました。それと比べると、本書はこの問題についての基礎的な知識を体系的に集め直したのではありません。そのため、少し足りない議論があることは承知しています。つまり本書は、以前の出版物をお持ちの方にとっては、「補遺版」という色彩が感じられるかもしれません。
しかし本書は、前書の議論を超えて、その後の研究と経験の蓄積で新たにわかってきたことも数多くあり、そんな大事な内容を加えて新たに書き下ろすことが目的です。そして、この目的を達成するにあたり、いつも当会には多様な立場や経験でカルトと関係してきた者が多く所属している強みがあります。本書はその利点を多いに生かしました。読者の皆さまには、研究者、教育者、カウンセラーやコンサルタント、宗教者、弁護士、元カルト信者、現役カルト信者の子ども(宗教二世)や親などの家族、といった幅広い「当事者」の視点からカルト問題の解決に向けて焦点を当てると、今、何が見えているのかに注目いただけると思いますし、そして今後、共に何をするべきかを問いたいと思っています。
はしがきの結びに及んで、この読者が被害を受けている当事者ならば、本書が少しでも問題解決の一助になりますことを、そして本書が、さらに社会の幅広い読者から一層の深い理解を得て、たくさんの御協力をいただけるきっかけになりますことを、切に祈りたいと思います。
西田公昭
執筆者一覧(掲載順)
西田公昭(立正大学心理学部対人・社会心理学科)
太刀掛俊之(大阪大学ウェルネス推進機構健康支援相談センター)
平野 学(臨床心理士・公認心理師,平野カウンセリングオフィス)
高杉葉子(臨床心理士・公認心理師)
はじめ・まこと(エホバの証人二世 脱会者)
匿名A(統一教会 脱会者)
山本ゆかり(脱会者,MARTHこと倉渕透グループ問題を考える会代表)
鈴木エイト(ジャーナリスト・作家)
竹迫 之(日本基督教団白河教会牧師 いのちの家LETS顧問 統一協会脱会者)
平野喜之(真宗大谷派僧侶)
北條 悟(浄土真宗本願寺派僧侶)
鈴木正一(天理教宗教事情調査研究会)
溪 英俊(浄土真宗本願寺派僧侶)
山口貴士(リンク総合法律事務所弁護士(日本&カリフォルニア州))
川上靖恵(日本脱カルト協会会員)
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