はじめての描画テスト・描画療法──描画を通してサイコセラピーを学ぶ
はじめての描画テスト・描画療法──描画を通してサイコセラピーを学ぶ
| 著者 | 寺沢英理子・篠村健人 |
| 出版年月 | 2026年6 月 |
| ISBN 図書コード | 978-4-86616-245-4 C3011 |
| 判型 | A5判並製 |
| ページ数 | 122(オールカラー) |
| 定価 | 2,600円(+税) |
内容紹介
その人の内面,深い世界が垣間見える描画テスト。そして,絵を描くことを通して,子どもや話すことが苦手なクライエントを支援する描画療法。
この2つを学ぶ最良の1冊ができました。
本書は,「バウムテスト」「誘発線描画法」「家族画テスト」「HTPPテスト」「風景構成法」など,ベイシックな描画テスト・描画療法の紹介,テストバッテリーの組み立て方,描画を心理療法で扱うときのコツなど詳しく解説。加えて80を超える絵をフルカラーで収録しました。
描画療法・描画テストを長年,実践・研究を続けてきた寺沢と篠村によって描かれたこの本は,初学者のだれでもがスタートできる1冊に仕上がりました。
主な目次
はじめに
第0章 本書の道案内──若い臨床家に本書を活用してもらうための手引き
第1章 心理アセスメント
第2章 描画療法の基礎
第3章 誘発線描画法の紹介
第4章 描画療法を導入したサイコセラピーの実例
第5章 サイコセラピーの基本を再考する
コラム1 樹木画を用いた描画過程の描写──模写と言語表現への変換
コラム2 描画療法をどう学ぶか
はじめに
人が自分を表現して他者に伝えたいと思う時,言葉は重要な表現手段になります。しかし,心の奥深くに抑圧し仕舞い込んだ気持ちを表現しようとすると,言葉は時に極端に無力となります。精神分析は,それらを言葉で表現させるために,方法論としての工夫を重ねて来ました。つまり,何らかの仕掛けがなければ,これは大変難しいことなのです。
意識に上らせないようにしているものが,日常の意識の領域に君臨する言語表現では掬いきれなかったとしても,仕方ありません。このような時には非言語表現の力を頼みにすることができます。そして,非言語表現の中で最も使いやすいのが描画です。
描画表現には,サイコセラピーのツールとして用いながら,アセスメント機能も同時に活用できるという利点もあります。クライエントに絵を描いてもらうことでセラピーが進み,かつ,描かれた絵によってクライエントの現在がアセスメントできるのです。先人による描画テストとしての研究の積み重ねがバックグラウンドにあるからです。
描画表現に基づいたアセスメントには,意識化されにくい部分もアセスメントできるということに加えて,その内容をクライエントとセラピストが視覚的に共有できるという長所もあります。
描画療法には,クライエントとセラピストの間に,「クライエントが描いた絵」という第3の要素が実体を持った物として置かれるという特異な構造があります。これも言語だけを用いたサイコセラピーと大きく異なる点ですが,この構造にはサイコセラピーにとって重要なことを可視化する働きがあります。初学者が描画療法を学ぶと,その過程でサイコセラピー全般についても理解が深まります。描画療法を学ぶことで言語的なサイコセラピーの腕も上がるのです。
以上,描画表現をサイコセラピーで用いる利点をリストアップしましたが,実際に描画を活用している臨床家はどのくらいいるのでしょうか。
臨床心理士や公認心理師の人数と比べると,日本芸術療法学会や日本描画テスト・描画療法学会の会員数は決して多いとはいえません。臨床場面で絵を使ってみたいと思いつつも,最初の一歩が踏み出せないでいる臨床家は結構多いのではないかと思われます。
描画テストに関する本や描画療法に関する本は,基礎から実践まで沢山出版されています。しかし,実際には,本に書かれたことよりも手前のところで疑問や不安を感じ,踏み出せないでいる場合が少なからずあるのではないでしょうか。
大学院や職場で教員や先輩から,描画について本に書くまでもない常識の部分をきちんと教えられ,描画利用の実際について手ほどきを受けることができる臨床家は少数でしょう。心理士/心理師を養成する大学院でも,描画について学べる機会は少ないのが実状です。描画を用いている臨床家が少ないので,大事なものだと認識しているのに次世代の臨床家にも広がらない,という一種の悪循環があるように感じます。この停滞を打破する本,すなわち,描画の入り口に立っている臨床家の背中を押すような本を作りたいというのが,本書執筆の動機の一つです。
本書執筆の背景について,もう一つ記しておきたいことがあります。
本書の共著者である篠村健人は,臨床心理士養成校の大学院生時代に私の指導を受けていました。彼は大学院修了後に臨床現場に出て研鑽を重ね,日々の臨床でさまざまなことを深く考えられるようになっています。その姿に臨床家としての円熟を見るに至っています。
この本の執筆を考えていた頃,篠村と私は,大学院での教育や指導について長時間かけて振り返る機会に恵まれました。あの時のあの先生の指導が今の自分の基礎になっているといった話から始まり,当時の教育カリキュラムに関する議論にまで話が及びました。
この過程で,教員が大学院生に伝えた臨床の知が,彼らの中にたくさん財産として残っていることが分かりました。座学で教えた基本的な知識に加えて,クライエントに会う時の心構えやクライエントを理解するための手掛かりなど,教員が臨床現場でクライエントから教えられたものが,教員の教えを受けた院生の脳裏にも深く刻まれていたのです。
臨床家教育の場で教えられる臨床の知には,臨床家から臨床家へと口頭で伝授される秘伝のような趣もあり,書籍には書かれていないものが多数あります。しかし,これをなんとか文章にして残していく努力が必要ではないかと考えるようになりました。
例えば,アセスメントのために描画テストをテストバッテリーに組み込んだ場合,クライエントが来室した状況下で具体的にどう動けば良いのかは,本のなかには余り書かれていません。テストバッテリーの中で描画テストを何番目に行うのが適切か。描画テストを始める際,画用紙はどのようなタイミングでクライエントに渡したら良いか。描画テストそのものの実施方法は本に書かれていても,このようなことは自明のこととして書かれていないことが多いのです。
篠村と話し合ったことは,このような隙間の部分ともいえることでした。心理臨床センターで実際のクライエントとの間で起きたさまざまな出来事を素材にして,実践的な学びの要所要所を再確認したとも言えるでしょう。基礎の基礎とも言うべき事柄に焦点を当てた本があって良いのではないか。これが篠村と私がたどり着いた結論です。
この本では,臨床家がどのように考えて心理検査に描画テストを加えるのか,あるいは何をどう判断してサイコセラピーに描画療法を導入するのか,という具体的な思考の流れを読者にできるだけお見せしたいと思います。そうすることで,読者の皆様が臨床の場でそれぞれのクライエントに合わせて活用していける「本質的」な部分をお伝えできるのではないかと考えたからです。
このような発想の下で執筆しましたので,残念ながら体系だった整然とした記述にはなりそうもありません。体系化は捨てて,臨床に役立ちそうな個別事項を沢山盛り込みたいと考えました。
前述した通り,諸先生方がこれまでにまとめて下さった技法的なことには重きを置かず,そこに辿り着くまでの隙間のような領域に焦点を多く当てていきたいと思います。唯一の正解というものがない臨床家の仕事では,いろいろな場面を想定して考える癖をつけておくことが力となります。私たちが臨床現場で体験したことをふんだんに盛り込みますので,自分ならどうするかと想像を巡らしながら読み進めていただければ,と思います。
口伝で伝授されてきた臨床の知をできるだけ形にするという発想の下で執筆しましたので,描画の導入にとどまらず,サイコセラピー全般,心理検査全般,ひいては心理職の心構えや教育といった内容まで含めることになりました。意のあるところを汲んでいただければ幸いです。
「口伝で伝授されてきた臨床の知を出来るだけ形にする」という方針で書き進めておりましたら,表記上の難題にぶつかりました。それは,口伝を形にする場合と,文章に書かれたものを引用する場合とで生じる表記の不統一です。例えば,私の大学院時代の恩師は田中弘子先生ですが,田中先生の著述から引用する場合は「田中は○○と言っている」と書けるのに,口伝でいただいたものを表現する場合は,「田中から○○と聞いた」とはとても書けません。同じ文章でも論文との違いを痛切に感じました。
最後の最後まで,この表記をどうするかに迷いました。篠村と何度も議論を重ねた結果,私たちは敢えて「~先生」という表記に統一することにしました。文中の表記が不統一だと読みにくいので,口伝に限らず,著書や論文からの引用でも同じ表記にすることにしたわけです。ただし,直接お目にかかったことがない先生,多くは外国の方については,例外といたしました。諸先輩からいただいた教えという意味では,その方がしっくりくると思ったからです。また,本書に登場する先生方のお名前については,初出の場合のみフルネームで記載することにしました。この方法は,私が博士論文を執筆する際に受けた指導を反映したものです。
この基準で執筆したため,篠村が執筆した部分では「寺沢先生」という表記が出て来ますが,関係性を考えれば致し方ないと結論づけました。このような揺らぎの体験を大切にし,こだわり,考え続けることも臨床家としては大切なことではないかと思ったからです。ここで記した表記に関する方針も,一つの挑戦あるいは試みですので,読者の皆様にもご理解いただき,この試みにお付き合いいただければ幸いです。
篠村との振り返りで最も楽しかったことは,教育がこんなにも人を育てるのだと実感できたこと,そして彼の成長を目の当たりにできたことでした。この稀有な体験に恵まれた者として,この視点も執筆に生かしたいと思いました。
嬉しいことに私が関わった臨床家たちが同様に育っています。今回は彼らを代表して篠村が執筆を分担してくれることになりました。彼との対話を通して,私自身の恩師との思い出も蘇り,私が恩師から受け継いだ遺伝子が教え子たちにも確かに伝わっていたことにも感動しました。恩師への計り知れない感謝の気持ちを最後に付け加えておきたいと思います。
【本書の執筆分担について】
第2章第2節の(3),第5章第3節および,コラム1の本体部分は篠村健人が,残りは寺沢英理子が執筆しました。
著者略歴
寺沢英理子(てらさわ えりこ)
1959年北海道札幌市生まれ。1988年新潟大学大学院教育学研究科修了。臨床心理士,公認心理師,日本芸術療法学会認定芸術療法士,日本描画テスト・描画療法学会認定描画療法士,博士(心理学)。大学院修了後,新潟大学医学部附属病院精神医学教室研修生を経て,東京大学医学部附属病院分院神経科にて勤務。その後の分院統合によって2001年から東京大学医学部附属病院精神科非常勤心理職として2006年まで勤務。この間,メンタルクリニック,スクールカウンセラー,産業界などさまざまな分野で経験を積む。また,2001年にE・R・Iカウンセリングルームを開設。2005年から大学に勤務し始め,ルーテル学院大学,札幌学院大学,広島国際大学,長野大学等で臨床心理学を教え,現在,神奈川大学大学院人間科学研究科非常勤講師。専門は芸術療法,精神分析的心理療法。
主な著書:『心理臨床の本音を語る』(ナカニシヤ出版,共著,2002年),『失敗から学ぶ心理臨床』(星和書店,共著,2002年),『心理臨床を終えるとき―終結をめぐる21のヒントと事例』(北大路書房,共著,2005年),『日常臨床語辞典』(誠信書房,共著,2006年),『芸術療法実践講座第2巻 絵画療法Ⅱ』(岩崎学術出版社,共著,2009年),『絵画療法の実践―事例を通してみる橋渡し機能』(遠見書房,単著,2010年),『臨床心理検査バッテリーの実際』(遠見書房,共著,2015年),『訪問カウンセリング―理論と実践』(遠見書房,単著,2016年),『絵本とともに学ぶ発達と教育の心理学』(晃洋書房,共著,2018年),『描画療法入門』(誠信書房,共著,2018年),『誘発線描画法実施マニュアル』(遠見書房,共著,2018年)。
篠村健人(しのむら たてひと)
1984年岩手県盛岡市生まれ。臨床心理士,公認心理師。2012年札幌学院大学大学院臨床心理学研究科修了。教育・医療・福祉の現場で心理臨床経験を持つ。現在は私立大学付属の心理相談室にて専任心理相談員を務めるかたわら,精神科クリニックや児童福祉施設での臨床,看護学校での講義,スーパーヴィジョンを通した後進の育成に取り組んでいる。
新刊案内
「遠見書房」の書籍は,こちらでも購入可能です。

最寄りの書店がご不便、あるいはネット書店で在庫がない場合、小社の直販サービスのサイト「遠見書房⭐︎書店」からご購入ください(store.jpというECサービスを利用しています)。商品は在庫のあるものはほとんど掲載しています。











