心理職のためのスーパーヴィジョン完全ガイド──理論から実践まで
心理職のためのスーパーヴィジョン完全ガイド──理論から実践まで
著者 | 小川 邦治 |
出版年月 | 2025年6月 |
ISBN | 978-4-86616-223-2 |
図書コード | C3011 |
判型 | 四六判・並製 |
ページ数 | 140 |
定価 | 2,000円(+税) |
内容紹介
ベテラン心理職になれば,個人スーパーヴィジョン(SV)だけではなく,職場やグループなどでのSVの機会も多くなる。SVを今までの経験だけで行っていないだろうか?
本書は,倫理的にも臨床的にもその効果が確認されているSVの正しい常識とその実際を,スーパヴァイザーとしてもスーパーヴァイジーとしても長年の経験のある著者がコンパクトにまとめた。いまだに古い方法が行われていることが少なくないSVだが,この本は,そんなSVを一気にバージョンアップするだろう。SVを行うときの最初の1冊として,確認のための1冊として必読の書。
主な目次
第1章 スーパーヴィジョンとは?
第2章 スーパーヴァイジーを理解する
第3章 スーパーヴィジョンの機能とスーパーヴァイザーの役割
第4章 スーパーヴィジョンの理論と実践1
第5章 スーパーヴィジョンの理論と実践2
第6章 実際的な問題
第7章 倫理を扱う
はじめに
はじめに
スーパーヴィジョンは,理論に裏づけられた専門的な実践です。したがって,スーパーヴィジョンを適切に行うためには,スーパーヴィジョンの理論を身につけ,スーパーヴィジョンについてのトレーニングを受ける必要があります。
この本は,実践的な視点からスーパーヴィジョンに「使える」モデルを紹介し,スーパーヴィジョンのための地図を提供することをめざしています。
私は主にイギリスの交流分析(Transactional Analysis,以下TA)のスーパーヴァイザーからスーパーヴィジョンのトレーニングを受けてきました。彼女らとの交流を通じて学んだのは,スーパーヴィジョンは実務経験や勘だけでやるものではなく,理論に裏打ちされた実践であって,それを身につけるためにはトレーニングが必要だということです。たとえば私が参加したスーパーヴィジョンを学ぶためのワークショップでは,ヨーロッパ中からTAのスーパーヴァイザーを目指す人が集まって「スーパーヴィジョンのスーパーヴィジョン」をライブで受けていました。これは参加者同士がスーパーヴァイザーとスーパーヴァイジーとなり,その場でスーパーヴィジョンを行い,それを見ていた指導者がその場でスーパーヴィジョンのスーパーヴィジョンを行う,といった形で進められていきました。
心理専門職の国家資格である公認心理師が誕生し,2024年からその養成に携わる実習指導者を対象とした講習会もスタートしました。その講習会の中でもスーパーヴィジョンが取り上げられています。これからは,一部の指導的立場の人だけが行うのではなく,私たち心理専門職がごく普通に現場での指導の一環としてスーパーヴィジョンを行う機会が増えてくることでしょう。
その時に私たちは何をどうしたらよいのでしょうか。ただ自分のスーパーヴァイジー経験を頼りに試行錯誤するだけではなく,スーパーヴィジョンをきちんと学ぶ必要が出てくると思います。
現実的には,わが国においてスーパーヴィジョンを学ぶ機会はとても限られています。心理専門職の育成にとって最も重要な手段の一つとされているにも関わらず,そもそもスーパーヴィジョンを学ぶ機会がほとんどないということは,決して望ましいことではありません。しかしながら,多くのスーパーヴァイザーは自分の心理臨床経験やスーパーヴァイジーとして受けてきたスーパーヴィジョンの経験を頼りにしているのが現状だと思います。
スーパーヴァイジーの立場からすれば,多忙な業務の合間を縫ってスーパーヴァイザーを探し求め,コンタクトをし,同意が得られたらスーパーヴィジョンを受けるための準備をし,スーパーヴィジョンに臨むということは,大変労力がかかるものです。結果的にスーパーヴィジョンを受けることなく,その時の自分の力だけで目の前の困難に向き合わざるを得ない方も多いように思います。
この本は,これからスーパーヴィジョンを行うことになる方や,今スーパーヴィジョンを行なっていて自分の実践を振り返りたい方のために書きました。心理専門職として働き始めて数年経つと,後輩の育成や大学院生の実習指導を担当することになるでしょう。今後心理専門職の職場が増えていって,組織の一翼を担うようになれば,その組織内で心理専門職のとりまとめ的な立場の方がメンバーに対してスーパーヴィジョンを行うことが一般的になるかもしれません。私自身かつて職場内でスーパーヴィジョンを行なっていたことがあります。その時は必要に迫られて行なっていましたが,組織における人材育成の観点に立てば,上司や職場のリーダーがスーパーヴァイザーとなり,同じ組織内で働く者に対してスーパーヴィジョンを行うことは現実的であるし,重要なことだと思います(もちろんこうした内部スーパーヴィジョンの形態には工夫しなければならない点もあるので,それは第6章で扱います)。本書はそういう指導的な立場にいる方,近い将来なるかもしれない方にもぜひ読んでいただきたいと思います。
本書は,スーパーヴィジョン理論についての学術書というよりは,実践の傍らに置いて参照したり活用できたりするような実用書であることを第一に考えて書きました。とりあげた概念はいずれもベーシックでかつシンプルなものが多いので,頭においておくだけでスーパーヴィジョンの質がぐっと高まり,効果を実感していただけるものと思います。もしスーパーヴィジョンの理論に興味を持ったり,もっと詳しく学びたくなったりした時には,それぞれの原典にあたってみてください。
この本の使い方
スーパーヴィジョンを学ぶために,本書では次の5つを柱としています。
1)経験学習のサイクル
2)スーパーヴァイジー
3)スーパーヴィジョンの機能とスーパーヴァイザー
4)スーパーヴィジョン理論
5)倫理原則と対応
スーパーヴィジョンとは育成のためのものであり,経験学習のサイクルそのものです。したがってKolb(1984)による経験学習のサイクルモデルを理解することから始めます。
次に,スーパーヴァイジーを理解しましょう。スーパーヴァイジーを到達段階ごとに分けてとらえることで,スーパーヴァイザーとして何ができるのかを考えることができるでしょう。スーパーヴィジョンは初学者のためだけでなく,あらゆるレベルの心理専門職にとって有益なものです。しかし,初学者のためのスーパーヴィジョンとベテランのためのスーパーヴィジョンは異なるものになるはずです。
これらを踏まえた上で,スーパーヴィジョンの機能とスーパーヴァイザーについて考えます。スーパーヴィジョンの機能を理解することで,スーパーヴァイザーとして自分がどのような役割を担ったらよいのかがわかるようになります。役割が見えてくれば,スーパーヴァイザーとして何をしたらよいのかが明確になります。
スーパーヴィジョン理論にはさまざまなものがありますが,本書で紹介するのは,私がTAをベースにしたスーパーヴィジョンを学んでいた時に出会ったものが中心です。しかし,それらを理解するためにTAの知識は不要です。むしろどの理論も特定の学派や流派に限定されない汎用的なものばかりです。どちらかというと,個人に焦点を当てたモデルというよりも,関係性やシステムに焦点を当てたモデルを取り上げています。
最後に,スーパーヴィジョンでは倫理の問題をどのように扱うかを取り上げます。スーパーヴィジョンを行なっていると,必ずといってよいほど倫理的な問題に遭遇し,対応を迫られます。その時に,スーパーヴァイザーとして私たちは何をどのようにしたらよいのでしょうか。
理論的な側面からスーパーヴィジョンの全体を理解すると,今まで手探りで行ってきたスーパーヴィジョンがよりアクティブで実践的なものに感じられると思います。そして,スーパーヴァイザーもスーパーヴァイジーと共に学ぶことのできる生産的な場としてスーパーヴィジョンが機能し始めるでしょう。
本書は,まず全体を一度通読し,スーパーヴィジョンの全体像をつかむことをお勧めします。いくつかの図はスーパーヴィジョンをイメージとしてとらえるのに最適ですので,ノートの隅に写しておいたり壁に貼っておいたりするなどして,スーパーヴィジョンの最中に目の届くところに置いておくと役立つと思います。
用語について説明します。本書において心理専門職とは,公認心理師や臨床心理士といった心理専門職の資格取得者を中心に考えています。さらには企業で働く産業カウンセラー,キャリアコンサルタントといった対人援助職も含まれます。カウンセラー,セラピスト,心理相談員などさまざまな職種がスーパーヴァイジーになり得ます。「心理」と書いていますが,社会福祉士や精神保健福祉士などの福祉職に対するスーパーヴィジョンにももちろん応用できますので,それぞれ読者の背景に合わせて読み取っていただいて構いません。
それではさっそくスーパーヴィジョンとは何かを考えることから始めたいと思います。
著者略歴
小川邦治(おがわ・くにはる)
東京都大田区生まれ。公認心理師・臨床心理士。西南学院大学人間科学部心理学科教授。
早稲田大学第一文学部卒業後,同大学大学院文学研究科心理学専攻修士課程修了。1999年より㈱日立製作所日立健康管理センタで臨床心理士のスーパーヴィジョン,およびメンタルヘルス研修やカウンセリングに従事。日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了,博士号(総合社会文化)取得。
TA(交流分析)を深澤道子氏に師事し,心理臨床活動の基盤とする。2008年以降,ローズマリー・ナッパー氏らイギリスのTAトレーナーからスーパーヴィジョンの訓練を受け,理論に基づく実践を追求。NPO法人日本TA協会元会長。2024年度日本応用心理学会学会賞(奨励論文賞)受賞。
現在,西南学院大学人間科学部心理学科教授として,スーパーヴィジョンおよび交流分析理論の研究と実践に従事。理論と実践の架け橋を目指し,心理職向けスーパーヴィジョンの提供や研修会講師としても活動している。
主な著書
『TAベイシックス』(共著,日本TA協会,2003年)
『基礎から学ぶ心理療法』(分担執筆,ナカニシヤ出版,2018年)
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