スクールカウンセラーの業務徹底解説セミナー──着任準備から引き継ぎまで
スクールカウンセラーの業務徹底解説セミナー──着任準備から引き継ぎまで
著者 | 田多井正彦 |
出版年月 | 2025年4月 |
ISBN | 978-4-86616-217-1 |
判型 | 四六判並製 |
ページ数 | 190 |
定価 | 2,300円(+税) |
内容紹介
初めてスクールカウンセラー(SC)として勤務する方,すでに現場にいるけれど「こんな時どうすれば?」と迷うことがある方へ。
本書は,SCが直面する「リアルな業務の流れ」を,着任準備から引き継ぎまで徹底的に解説。カウンセリング技法だけでなく,情報収集のコツ,教職員との連携,雑務を効率化する方法,負担を減らす働き方まで,現場でしか手に入らないノウハウが詰まった「実践的」な一冊です。
初級者から中堅までの多くのSCの方,学校教職員などにぜひ読んでいただきたい本ができあがりました。
主な目次
はじめに
近年のスクールカウンセラーをめぐる話題
スクールカウンセリングをとりまく問題
日本におけるスクールカウンセリングは平成7(1995)年から始まりました。そろそろ30年を迎えようとしています。尊敬する先人達と現在スクールカウンセラーとして活動している我々の積み上げてきた成果としてこの30年の歩みはある,と言えるでしょう。(以下,「人物や制度としてのスクールカウンセラー」をSCと略します)
そのような中,ここ数年,SCに対する問題点がいくつかネット上で話題になりました。
まずは2022年4月29日の産経ニュースに,『「スクールカウンセラーは助言を」 文科省が全国教委に要請』という記事が掲載されました。
内容を要約しますと,保護者への助言や教師と情報共有を行わず,チーム学校として機能していないSCがいるという指摘です。要因として,臨床心理士の「助言しない」古典的な面接技法にこだわり,またそれしかできないSCがおり傾聴や共感のみにとどまっているということです。それは相談者の期待を裏切ってしまい,税金を使っている以上,不登校の減少という目に見える結果を示すべきであり研修により力を入れてほしい,ということでした。
この記事はSCあるいは心理職のX(旧Twitter)等SNSでも話題になり,さまざまな意見や感想が出ました。耳が痛いと記事の指摘を正面から受け止める人もいたでしょうし,反論のある人もいたでしょう。
もうひとつ,最近ネット上の話題となったSC関連では,2020年の心理職ユニオン(労働組合)の活動開始とその心理職ユニオンが2021年に東京都のSCの労働実態についてアンケート調査を行ったことが挙げられます。心理職ユニオンによると都のSCに対してこのような調査が行われたのは初めてだそうです。その結果,都SCの年齢や性別,臨床経験年数などと共に,SCのかかえるストレス要因,残業時間,持ち帰り仕事の有無,雇用形態の問題が明らかになりました。そして,都SCのストレス要因として一番多く選ばれたのは,「雇用の不安定さ」だったとのことです。その他,管理職の評価のみで採用が左右される点や社会保障のないことなども,ストレスや不安として挙げられていました。
実は,このような問題はここ数年に生じたわけではなく,もう数十年前から指摘されていたことのようです。しかし,インターネット,特にSNSの発展によって,SC事情に詳しい教育行政やSC事業に長年取り組んできた大学の先生方以外にも広まることになったのが,ここ数年なのだと思います。
また不登校の人数や心の病での教職員の休職が激増していることもあるでしょう。そのような情勢で,スクールカウンセリングの効果や意義,そしてSC自身のストレスに注目することも重要になってきているのだと思います。(令和6年度の東京都SCの採用に関し,多くのSCが不採用(雇止め)になった問題は「あとがき」で触れます)
オンライン時代のSCの研修会
さて,SCあるいは心理職のX(旧Twitter)でも話題,インターネット,SNSの発展,という表現をしましたが,近年のSCを考える上でも,やはりそれらは欠かせません。とはいえ,スクールカウンセリングでオンライン面接やSNS相談を行っているSCはまだ少ないと思われます。
双方向のインターネット環境の整備が大きな影響を及ぼしているのは,我々専門家の研修や連絡会のようです。新型コロナウイルスの影響もあり,心理士(師)の研修会のオンライン化が急速に発展しました。コロナ禍後に集まって対面して行う研修会が可能になっても,オンラインのメリットは残るので,これからもオンライン研修が開催される流れは変わらないでしょう。
著者も前著『学校では教えないスクールカウンセリングの業務マニュアル』(遠見書房)を受けたオンライン研修を2022年から行うようになりました。きっかけは,(株)メディカルリクルーティング様からのオンラインセミナーの提案でした。2022年8月28日に,「初学者向けSCセミナー~学校では教えない業務のコツをわかりやすくまとめました~」を開催しました。こちらのセミナーが幸い好評だったようで,引き続き2023年には全10回,通年のオンラインセミナー「スクールカウンセリング超実践道場2023」を開催いたしました。2024年には,1学期の活動にテーマを絞るという珍しいセミナー「これで安心! 失敗したくないSCのための1学期業務マニュアル2024」を開催しています。
今後も,オンラインのメリットを活かしたセミナーや研修会が多く開かれていくでしょう。2人以上で行う身体技法の体験ができない点や対面による空気感,雰囲気が伝わらないというデメリットもあり,またケースを扱ううえでのセキュリティ上の問題もありますが(臨床心理士資格更新ポイントの減算という内部事情の問題もあります),自宅やオフィスで参加できる,録画公開すれば当日参加できない人も受講できるという,講師,受講者双方にとってのメリットはとても大きいものです。講師としての立場からの感想ですが,内容や熱量は対面と変わらず実施できた気がします。
本書のねらい
さて,本題です。今回,上記したオンラインセミナーをまとめ,なるべく当時のセミナーそのものを聴いていただけるような逐語録的な本を目指して執筆しました。セミナーでは,産経ニュースの記事や心理職ユニオンのアンケート結果を強く意識してはいませんでしたが,SCの活動を有効かつ合理的に進められるように,ただ傾聴と共感だけではないSC技法,多(他)職種連携,そして雑務を楽にこなして残業やストレスをためない業務のコツについてお話しました。本書も同様のねらいで書かれています。前著で取り上げた「SCだよりの作り方」「授業観察」「予算の使い方」と合わせてお読みいただければ,SC業務の大半,とくに臨床以外の雑務に関しては,だいたいカバーできるかと思います。
また,筆者のセミナーの特徴として,1年間の勤務の流れを説明し,各時期でやるべき業務やその特徴,コツを解説しています。本書もセミナー同様にSC業務を細かく時期に分けて,学生やまだSCになっていない方,初心者等がSCの仕事の流れについてイメージしやすく,勤務開始してからも各時期,各タイミングで確認していただけるような構成となっています。私は合理的とは良い意味で楽,という風にとらえています。なるべく無駄を省いて楽にSC活動をやっていきたいと思っています。手抜きでなく合理的に。売り手よし,買い手よし,世間よし,という近江商人の言葉がありますが,SCよし,相談者(児童・生徒,保護者)よし,学校(世間)よし,を狙いましょう。
また,SC(を志す方々)は臨床面については大学院,研修会,学会,SV(スーパーヴィジョン)で学んできていると思います。本書では,日々の業務も含めてOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)的な面も学んでいきたいと思います。前著『学校では教えないスクールカウンセラーの業務マニュアル』もその目的で書いていて,あちらではあえて臨床面は書かずイラストカット集をつけたんですが,今回は臨床面も後半で触れたいと思います。
なので,第1部はそういったことをやりまして,第2・3部は臨床面の解説をします。
SCを目指す大学生,大学院生,初心のSC,他の分野での経験があるがSCの経験が少ない心理職,SCの業務を理解したい学校・教育関係者,といった方々にとってお力になれる本になっていれば幸いです。
なおセミナーでは参加者との質疑応答もあり,当時の質疑応答もいくつか掲載しています。質問者はもちろん匿名ですが,許可を取って掲載しています。
それでは,さっそく講義を始めましょう。
文 献
田多井正彦(2021)学校では教えないスクールカウンセラーの業務マニュアル─心理支援を支える表に出ない仕事のノウハウ.遠見書房.
産経新聞:〈独自〉「スクールカウンセラーは助言を」 文科省が全国教委に要請」(2022年4月29日).産経ニュース.https://www.sankei.com/article/20220429-5ELXL64IJZOANOMHYVFSMVCYQ4/(2024年4月1日最終閲覧)
心理職ユニオン.東京都スクールカウンセラー労働実態調査報告.https://www.shinrishiunion.org/about-1(2024年4月1日最終閲覧)
*本書掲載のイラストは,手書きのものをのぞいて,すべて,田多井正彦『学校では教えないスクールカウンセラーの業務マニュアル─心理支援を支える表に出ない仕事のノウハウ』(遠見書房)から利用しています。
著者略歴
田多井正彦(たたい・まさひこ)
しらかば心理相談室代表,東京都スクールカウンセラー,大妻女子大学講師。
長野県松本市生まれ,神奈川県横浜市育ち。公認心理師・臨床心理士。
慶應義塾大学文学部人間関係学科人間科学専攻卒業。大手学習塾に入社。運営スタッフとして勤務したのち,臨床心理士を目指して退職。東洋英和女学院大学大学院人間科学研究科人間科学専攻臨床心理学領域修了。
大学時代にメンタルフレンドのボランティアを経験。その後も常に子どもたちと触れ合う職場で活動している。2019年,「しらかば心理相談室」開室。合気道の心理療法への応用も実践,研究中。合氣道三段。
著書:『学校では教えないスクールカウンセラーの業務マニュアル──心理支援を支える表に出ない仕事のノウハウ』(遠見書房)
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