学校でグループ・アプローチを活用する手引き──スクールカウンセラー・教職員のためのメソッド(BL子どもの心と学校臨床10)

学校でグループ・アプローチを活用する手引き──スクールカウンセラー・教職員のためのメソッド(BL子どもの心と学校臨床10)
監修者
編者
相田信男
大橋良枝・梶本浩史
出版年月2025年3月
ISBN978-4-86616-216-4
判型A5判並製
ページ数180
定価2,200円(+税)
内容紹介

グループの力を学校臨床やクラス運営に効果的に使ってみませんか?

この本は、学校の教員、養護教諭,スクールカウンセラー(SC),スクールソーシャルワーカー(SSW) など学校・教育現場に関係している方に向けた、グループ・アプローチの視点や方法を活用する手引きです。精神科治療やコミュニティ活動に活用されていたグループ・アプローチを,学校の現場や周辺で働いてきたベテランたちが集まり描いたこの本は,わかりやすく,進めやすく,広がりをもった1冊となっています。

大好評の〈ブックレット:子どもの心と学校臨床〉の1冊です。https://tomishobo.com/catalog/category/frontpage/frontpage01

主な目次
編者まえがき

この本は,先生,スクールカウンセラー(SC),スクールソーシャルワーカー(SSW)など学校・教育現場に関係している方に向けて,グループ・アプローチの視点や方法を活用する手引きとして作りました。
きっかけは共同編者の大橋から「やっていることを本にした方がいい」と声をかけられたことです。学校でグループの視点や方法を活用したい方々を対象にした研修機会を設けたり,学会誌等に報告してきた延長線上で本書をつくることができれば,各地の学校・教育現場で働いている人に広く役立てられるかもしれないと考えました。
その結果は読者の皆さんからの反応を待つしかありませんが,一つの心強さがあります。それは,本書作成プロセスで全国各地の執筆者たちがZoomで集まり,定期的にグループを行ってきた体験からくるものです。ときに本題からそれた話もしながら,それぞれの声に耳を傾ける雰囲気のなかで,例えば,檄文を書くように執筆者から求められていたけれども「この本に檄文はそぐわない」と自分の感覚を伝えられた時のことを思い出します。こんなふうに私たちはそれぞれの考えや感情を話し合っていました。職員室で各先生が安心してお互いの考えや感情を話し合えていたら各クラスにもその雰囲気が伝わるように,きっと執筆者たちのZoomグループの風が各章にそよいでいます。
さて,本書は3部プラス序章と終章で構成されています。序章では,精神科医であり,日本の集団精神療法のリーディングパーソンの一人である相田が,学校現場とグループ・アプローチを行うこと(グループすること)の接合を試みています。この序章から,本書が集団精神療法の専門家の知識と経験から編まれた,特異な教育現場の書であることが伝わるのではないでしょうか。学校がグループ・アプローチの現場であることに異議を持つ方は少ないのではないかと思われますが,本書ほど集団の専門家がグループの視点で学校・教育現場について書ききった書籍はないと言ってよいでしょう。
本書を手にとる皆さんは,多くは学校現場での臨床や教育に迷いや悩みをお持ちの方だと思います。あるいは,臨床や教育に関心を持つ学生かもしれません。私たちもこうした方々に本書を届けたいと思っています。しかし,こうした方々の多くにとって,グループ・アプローチとはイメージしにくいものでしょう。そこで,「第1部 入門編」では,グループ・アプローチ全般について基本的な考え方を大橋が概説し,それを学校現場の臨床や教育にいかに適用していくか,梶本・鎌田が分かりやすく描写しています。
その後,「第2部 実践編」では,具体的な事例をまじえてグループ・アプローチの実践方法を学ぶことができます。鎌田・梶本による学校におけるグループの技法の概説に続き,スクールカウンセリング(廣瀨),学校組織コンサルテーション(大橋),学校緊急支援(菅),虐待事例への対応(松尾),医療とのつながり(高),教育相談機関におけるグループ(木村・那須)といった具体的場面におけるグループ・アプローチによる実践が描かれてます。
しかし,第2部でもたびたび指摘されるように,グループ・アプローチの実践は知識だけではどうにもならないことも事実です。そこで,第3部では実践的なスキルを習得するためのトレーニング方法として,体験グループ(野村),事例検討(西村)の説明を示しています。
こうして学校・教育現場におけるグループ・アプローチについて包括的に示したのち,終章において,集団精神療法の専門家であり,ひきこもりの臨床に携わる精神科医の加藤が,学校で仲間と活動するという子どもの在り方とある種対極的な様態を示すひきこもりの患者への治療・支援を長く継続してきたそのまなざしから,学校の未来として,グループ・アプローチを取り入れた上で見えてくる希望を描いています。
本書を通して読者の皆さんとつながり,ともに学びあえるのを楽しみにしています。
(梶本浩史・大橋良枝)

 

監修者あとがき

こうした欄に言葉を記す光栄に浴する機会を得て,大変にありがたいと思います。
そもそも,この度お二人の編集責任者から本書の企画のごく入口について伺ったのは,2023年3月名古屋での日本集団精神療法学会第40回学術大会中,あるワークショップを終えた会場でのことでした。この大会は予想外に長く続いたコロナ禍のゆえに結局のところ満足には叶わなかった対面での学術大会が久しぶりに開催できた機会でした。そうした喜びと,しかしこれがいつ崩れるかもしれないといった不安を抱えての状況下でした。
私自身はお二人の企画に誘われて嬉しく感じるとともに,正直なところいくぶんかの厄介を背負い込んだ感覚も抱いていました。私にとってはこれまで直接には馴染みの薄い学校・教育関係の領域の仕事だったからだと思います。私はしばらくの間,関係領域の論文を読み直すよう努めたりしました。個人的状況としては,たまたま時期を同じくして,勤める病院での児童思春期病棟の立ち上げへの参画,初期の臨床活動への参加という機会とのめぐりあわせが,本書の編集を理解するうえでとても有意義に働いたとふり返っています。
ところで,もしも本書が,どこかでどなたかに書評を書いていていただけるような機会があったらと想像します。その節は,本書は実のところ学校・教育関係にとどまらず広くグループ療法(や,その訓練,その発展)について記した書だ,と評していただけないだろうかなどと思います。つまりこれは,監修者という役割からして本書の印刷前に各執筆者による推敲過程までも含めて知る機会を得られた,私自身の感想なわけですけれども。
序章の冒頭に記した「グループしながら本書を編んだ」というのは実際こうでした。私たち執筆者は月に一度──ときにより間隔を縮めて──オンライン会議により意見交換しました。その合間に,監修者と編集者での同様な小会議を──ときに出版者を交えて──持ちましたが,それらの内容はグループの執筆者全員に──たまたまの欠席者も含めて──録画のままシェアしたのでした。そうした過程を経た本書は私たちの自信作です。時間的経過を見ながら「続編」あるいは「改訂版」の編集などという夢も上記グループのなかで語り合うことがありました。グループで編んだ本らしく,また「改訂・続編編集のグループ」のためにも,多くのご批判,異なるご見解が寄せられることを希望するところです。

このオンライン会議の一具体例を述べてみます。Confrontationの用語は「突き上げ」として紹介されました(10章)。しかしメンバーの一人(実は筆者です)は,この訳語が日本集団精神療法学会刊の用語集に挙げられていることを承知しながら「突きつけ」の方が適切だと主張しました。と言うのも,そもそも「突き上げ」は1960年代に「労働組合は使用者(経営側)を突き上げた」などという報道で一般人もよく知る言葉だったという筆者の記憶があります。やがてこの語は60年代後半,大学闘争の激しい時代に「学部長,学長(大学当局という語もありました)を学生集団が突き上げた」などとしばしば使われました。そして筆者は,この語は権力あるいは権威をめぐる上下関係が前提になっていると理解しており,さらにconfrontationに「突き上げ」の語を当てるのにはこうした時代の影響がきっとあったと解釈しているのです。ところが実際のグループでは,対等な関係にあるメンバー同士で,またコンダクターからメンバーに向かって,confrontationが行われます。著者自身そういった具合の「突きつけ」を受けながらグループでトレーニングされたと体験しています。けれども以上のような筆者の意見はオンライン会議で賛同を得ませんでした。あるメンバーは「突き上げ」という現在の日常語には馴染みの薄い「ひっかかる感じ」が人をして「あれっ」と違和感を抱かせ,むしろ「直面化」に本来内包されていると思える(自己の)内面の対立を意識化させる一助になろうと言うのです。また他のメンバーは,言葉はどの場面で使われるのかということが大事で,その点本書で伝えんとするconfrontationの場面は,学校・教育関連領域で「上の人に向かう」チャレンジングな側面が含まれており,その点でも「突き上げ」の方が適切だと言うのでした。結局,言葉の成り立ちにおける歴史的,また文化的背景の大切さを改めて共有しつつ,この日の討論自体を「あとがき」に記そうと提案され,そうなりました。私たちは,こんな具合にグループして,進んできました。

私たちは自分たちでは手に負えない出版関係の技術や常識また工夫について,遠見書房の山内さんに,そういった類の助言や知恵の提供をお願いできますか,と伺う第一報のメールを差し上げるところから本書発刊の具体化作業の第一歩を踏み出しました。その際私たちが彼について一致して同定し共有していたのは,「餅は餅屋」のフレーズに従い「餅屋の山内さん」という命名でした。本書の完成を前にして,餅屋の山内俊介さんに大いなる,こころからの感謝をお伝えしたいと思います。どうもありがとうございました。
当欄では「機会」の語を幾度か繰り返してしまいました。文章の書き方としては上手ではありませんが,実感としたら,そういった種々の機会との出会いがあった事実にも大いに感謝しています。
(相田信男記)

 

監修者・編者紹介・執筆者一覧

監修者略歴
相田信男(あいだ・のぶお)

特定医療法人群馬会群馬病院・副理事長・名誉院長。埼玉県生まれ,1971年慶應義塾大学医学部卒業。精神科医。社会福祉法人桜ケ丘事業協会桜ケ丘保養院(現桜ケ丘記念病院),赤坂タケダクリニック,慶大精神・神経科学教室での臨床経験を経て,1988年から群馬病院勤務。2008年以来現職。
日本精神分析学会認定精神分析的精神療法医,同スーパーバイザー,国際精神分析協会会員(Psychoanalyst),日本精神分析協会会員,同訓練分析家,日本集団精神療法学会認定グループサイコセラピスト,同スーパーバイザー。
主な著訳書:「実践・精神分析的精神療法──個人療法そして集団療法」(金剛出版,単著),W. R. D. Fairbairn著「対象関係論の源流──フェアベーン主要論文集」(遠見書房,監訳)ほか。

大橋良枝(おおはし・よしえ)
京都文教大学臨床心理学部教授。公認心理師・臨床心理士。鳥取県生まれ,2000年国際基督教大学博士後期課程修了(教育学博士)。品川区教育相談センター,PAS心理教育研究所専任サイコセラピスト,埼玉県教育委員会特別非常勤講師等,臨床経験を経て2004年より現職。
MBTプラクティショナー(Anna Freud),日本集団精神療法学会認定グループサイコセラピスト。
主な著書:『愛着障害児とのつきあい方──特別支援学校教員チームとの実践』(金剛出版,単著)

梶本浩史(かじもと・ひろし)
東京都公立学校スクールカウンセラー。1999年東京都立大学大学院人文科学研究科教育学修士修了。公認心理師・臨床心理士。スクールカウンセラーとして21校で勤務。worksTokyo代表。
主な著訳書:『集団精神療法の実践事例30──グループ臨床の多様な展開』(日本集団精神療法学会編集委員会監修,創元社,分担執筆),H. Weinberg, A. Rolnick著『オンラインセラピーの理論と実践──インターネットを通じた個人・集団・家族・組織への介入』(岡島美朗・西村馨監訳,創元社,分担翻訳)

執筆者一覧
相田 信男(あいだ・のぶお:特定医療法人群馬会 群馬病院)=監修者
大橋 良枝(おおはし・よしえ:京都文教大学臨床心理学部臨床心理学科)=編者
梶本 浩史(かじもと・ひろし:東京都スクールカウンセラー)=編者
鎌田明日香(かまだ・あすか:伽羅堂/札幌市スクールカウンセラー)
廣瀨 真理(ひろせ・まり:東京都スクールカウンセラー)
菅  武史(すが・たけし:広島市スクールカウンセラー)
松尾真規子(まつお・まきこ:駒沢女子大学看護学部看護学科)
高  富栄(こう・ぷよん:医療法人コこころのクリニック)
木村 能成(きむら・よしなり:新潟医療福祉大学心理・福祉学部心理健康学科)
那須 里絵(なす・りえ:早稲田大学総合研究機構)
野村  学(のむら・まなぶ:オリブ山病院/沖縄県スクールカウンセラー)
西村  馨(にしむら・かおる:国際基督教大学教養学部アーツ・サイエンス学科)
加藤 隆弘(かとう・たかひろ:九州大学大学院医学研究院 精神病態医学分野/2025年4月~,北海道大学大学院医学研究院 神経病態学分野精神医学教室)


新刊案内

「遠見書房」の書籍は,こちらでも購入可能です。

最寄りの書店がご不便、あるいはネット書店で在庫がない場合、小社の直販サービスのサイト「遠見書房⭐︎書店」からご購入ください(store.jpというECサービスを利用しています)。商品は在庫のあるものはほとんど掲載しています。