心理アセスメントの常識──心構えからフィードバックまで基礎と実践の手引き

心理アセスメントの常識──心構えからフィードバックまで基礎と実践の手引き

(東海学院大学) 内田裕之

定価2,000円(+税),168頁,四六判並製
ISBN978-4-86616-197-6 C3011
2024年8月刊行

 

 

 

 

本書は,クライエントと出会う際の心構え,行動観察からロールシャッハ,バウム,SCT,知能検査,質問紙等のアセスメント手法のコツ,検査の準備から解釈,テスト・バッテリー,フィードバックまで,学校では教えてくれない,心理アセスメントの新しい教科書です。
30年以上にわたる臨床経験をもとに,人間の心に向き合い続けるプロフェッショナルが,心理検査の極意を語り尽くしました。各種心理テストに関するヒントが満載の,本当の心理療法家になるための必携の一冊となりました。


主な目次

第1章 心構え
第2章 行動観察
第3章 質問紙法
第4章 知能検査
第5章 バウムテスト
第6章 SCT
第7章 ロールシャッハ・テスト
第8章 解釈と伝達

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著者略歴
内田裕之(うちだ・ひろゆき)

1967年 京都府生まれ
1990年 南山大学文学部卒業
1992年 愛知教育大学大学院教育学研究科修了
1995年 名古屋大学大学院教育学研究科単位取得満期退学
2005年 東亜大学大学院総合学術研究科にて博士(学術)取得
現在 東海学院大学人間関係学部心理学科教授,岐南カウンセリングルーム室長
臨床心理士 博士(学術)
専門:心理アセスメントの研究と実践
イメージを媒介とした心理療法
発達障害児者への心理的支援,養育者への支援
大学生の世間イメージに関する研究


はじめに

本書は,心理的アセスメントに関する内容を取り扱い,主に心理テストを用いたアセスメントに関して論じたものである。
こうしたテキストは,すでにいくつも書かれているものの,各テストの専門家が分担執筆する形で紹介されることが多い。また,事例検討論文,研究会資料の中でアセスメントに関する資料は,簡単に紹介されるだけで,本題は心理療法への流れであり,テスト情報は補助資料となることが多い。
大学教員を務めている私の社会の窓から見える風景は,「何とかテスト所見を書いてみた」というところで,特に初心者の場合,所見が箇条書きになったり,テストごとの所見にとどまったりして,せっかく行った複数の心理テストの所見がまとまったものになりにくいことを感じている。
それは,大学院生のみならず,大学院修了後3年から5年程度の人が困っているようで,心理テストの習熟,所見作成に苦労していることが伝わってくる。ましてや複数のテストをまとめることについては「わからない」「難しい」「ガイドラインや着目点を示してほしい」という声が多く聞かれる。
そこで,1人の臨床家が複数のテストに示される多くの情報をどのようにつないでいくのかを示したいという気持ちになった。私自身,得意なテスト/苦手なテストがあるし,興味関心の度合いにも温度差がある。しかしながら,これまで30年以上,病院臨床,学校臨床,学生相談室,大学院教育に携わり,それなりにさまざまな心理テストの守備範囲は自分なりに見えてきた。このことを手掛かりに,各テストの「つなぎ目」は何かということにも目を配って,アセスメントを行うように臨床活動を行ってきた。
こうした私のささやかな経験,その中で感じたり考えたりしたことを伝えることも若い臨床家たちの参考になるのではないかという気持ちが高まった。そこで,よく使われる心理テストを紹介しながら,各テストの中で考えておくこと,ひいては「この点は別のテストを取ればより明確になる」という感覚を持って,追加でテストを施行してバッテリーを組めるようになっていっていただきたい。また,心理職自身の判断だけではなく,医師から依頼された複数の心理テストを有意義に用いて,総合的な所見作成ができるようになることを目指していきたい。
本書で挙げたテストそれぞれの専門家からすれば,私の記述は「ぬるい」と批判があることだろう。それは甘受して,テスト離れが著しい現代において,好きな(得意な)テストが見つかればありがたい。筆者なりに感じている各テストの魅力・威力を述べたいので,参考にしていただければ幸いである。そして,テストもできる心理療法家,アセスメントを重視できる臨床家,アセスメントと心理療法が一体化した臨床家が育っていくことに主眼を置きたい。
どうぞ,私のささやかな経験と拙い文章が何らかの刺激になることを望んで,本書を進めていきたい。
序論の最後に書いておきたいことがある。故・辻悟先生のご著書『ロールシャッハ検査法』にサインを求めたところ,「人を知る途」というおことばを添えていただけた。このおことばをいただいて,ロールシャッハはじめさまざまなテストを用いることは,「途」であり,テストを取ったらすぐさま被検者が丸わかりになるということではない。また,辻・福永(2018)では,「被検者はスコアされた結果を,あるいは結果で生きるのではなくて,スコアに結果するプロセスを生きている」という含蓄深い表現が出てくる。テストパフォーマンスやテスト反応や数値化されたデータではなく,その被検者が反応を生み出すまでのプロセスに主眼を置いてもらいたい。
アセスメントでは,病態水準や発達水準や知的水準などに関する記述が求められ,予後についての意見も求められる。そうした結論に至るプロセスを考えていただければ望外の喜びである。


謝   辞


この本は私一人では書くことができませんでした。多くの方々の支えがあって書き上げることができたと思っています。
まずは,私を導いてくださったお師匠さんたちに謝辞を述べたいと思います。南山大学文学部教育学科でご指導くださった長谷川雅雄先生は,臨床の道に進むことをお許しいただき,「臨床の仲間が生まれた」と呼んでくださり,うれしかったことを今でも覚えております。愛知教育大学大学院でお世話になった西村洲衞男先生からは,心理臨床の最初の手ほどきを受け,ユング心理学を教えていただき,その後,私がソンディ・テストを学びたいと言った時にそれをお許しくださったことに感謝しております。鬼籍に入られましたが感謝の念はやみません。最初に勤務した精神科病院でご指導くださった外ノ池裕美先生は,病院臨床における基本的態度を教えてくださり,時に厳しく時に優しい態度でご指導いただいたことを感謝しております。修士時代から現在に至るまで私の成長を温かく見守ってくださっている佐藤勝利先生に感謝しております。私にソンディ・テストを教えてくださり,一緒に自主シンポジウムを開催したり本を書いたりしてきた奥野哲也先生に感謝しております。私が東亜大学に提出した博士論文の主査を務めてくださった村山正治先生にはロジャリアンであるのに私のテスト理解に評価くださったことを感謝しております。私のスーパーバイザーであった渡辺雄三先生からは,ロールシャッハ・テストと心理療法について教えていただき,人間理解や心理臨床家のアイデンティティを形成していく種をもらいました。私の教育分析家だった吉田耕治先生は,心理療法とは何かを体験させていただいたこと,折に触れて励ましてくださり,私の進む道を支持してくださったことに感謝しています。こころから師匠と呼びたい大塚義孝先生は,愚かで未熟な私を破門にすることなく,アセスメントと心理療法をその背中と多弁さで教えてくださり,私の社会化,成熟化,人間化を見守ってくださいました。ありがとうございます。
また,お互いの臨床活動を尊敬し励まし合ってきた同志である石塚友也先生,豊田洋子先生,故・澤田和重先生,石橋正浩先生,串崎真志先生,藤井憲先生に感謝しております。
まだ大学教員になる前に1990年代後半に主催していたアセスメント研究会のメンバーとの対話がありました。この対話を通して,ずいぶん私の頭は整理されていきました。ありがとうございました。
大学教員になってからは,教えてきた学生さんたちから,私の授業を受けて感想・反響が寄せられ,うれしく励みになりました。初めて大学教員として赴任した東亜大学大学院の皆さん,特に研究会でご一緒した皆さん,現在奉職している東海学院大学大学院の皆さん,私のゼミで投影法をテーマに修士論文をまとめられた皆さん,特に2022年度生の皆さんが活発な質問をしてくださり,積極的な討論にいたる学びへの姿勢を示して,私の拙い授業に関心をもってくださいました。それがこのタイミングでこの本を書く原動力になりました。ありがとうございます。
スーパーバイジーの皆さんは,臨床心理学の専門用語をうまく使えず,端切れの悪いことばでスーパーバイズをする私を頼ってきてくださり,申し訳なさが混じる中,いろいろな現場での知見を提供してくださったことに感謝しております。
私の大切な家族であるマサラ(犬)は,原稿を書いている間,静かに待って,私が仕事を終わってフ~と寝そべると「待ってたよ。ボク! ボクの時間!」なのか,「パパ,お疲れ!」なのか,甘えてくる様子に救われました。また,猫のタンタンは,PCに乗って邪魔をしたり,終わったタイミングで可愛い声で「にゃ~」と鳴いたり,猫ならではのサポートをもらいました。あるいは,FMをMとスコアしているかもしれません。クロッパー法ではMになるのでお許しください。
一方,調査研究として博士論文のデータ収集に協力してくださった被検者さんは,投影法という見慣れない怪し気なことをされたと思われたかもしれませんが,貴重な時間とエネルギーを私のために割いてくださり,感謝しても足りません。
最後に,心理臨床活動を行う中で,テストを通してでしか会えなかった患者さん・クライエントさん,心理療法で出会ったクライエントさんこそ,私に心理臨床を教えてくださったものと思っております。その後の幸せ,自由な選択のできる暮らしを送っておられることを祈念しております。
なかなか筆の進まない私に催促もなく,自分のペースで原稿を書くのを待ってくださっていた遠見書房の山内俊介さんに感謝しております。
私はこれだけたくさんの人のサポートがあってようやくこの本を書くことができました。本当にありがとうございます。
長年夢見ていた個人開業を始めた年にこの本を書けたことをうれしく思っています。

令和5(2023)年 岐阜にて
内田裕之


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