質的研究法M-GTA叢書2 乳幼児虐待予防のための多機関連携のプロセス研究――産科医療機関における「気になる親子」への気づきから

質的研究法M-GTA叢書2 乳幼児虐待予防のための多機関連携のプロセス研究――産科医療機関における「気になる親子」への気づきから

唐田順子著
2,200円(+税) A5判 並製 160頁
C3011 ISBN978-4-86616-162-4
2023年3月発行

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本書は,産科医療機関において,妊娠・出産・子育てのスタートを支援する助産師・看護師がいかに子ども虐待予防の一端を担っているかを示したものです。子ども虐待の死亡事例は0歳の乳児が最も多く,産科医療機関退院後も親子を継続的に支えてゆくためには医療と保健・福祉機関との連携が必要になります。M-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)を用いた分析によって見えてきた,看護職者が「気になる親子」を見つけてから多機関との連携を形成発展させてゆくプロセスとは。本書の研究は子ども虐待予防のために日々現場で奮闘している看護職の方たちの参考になることでしょう。
また,質的研究法学習者のために,概念生成やカテゴリー化などM-GTAの分析過程を詳述しました。大好評の「質的研究法M-GTA叢書」シリーズ第2弾。


目次
第1章 研究の背景・目的と研究方法の選択
第2章 研究の枠組み
第3章 研究1 産科医療施設(総合病院)の看護職者が「気になる親子」を他機関への情報提供ケースとして確定するプロセス
第4章 研究2 産科医療施設(総合病院)の看護職者が「気になる親子」の情報を提供してから他機関との連携が発展するプロセス
第5章 研究3 産婦人科病院・診療所の看護職者が「気になる親子」を他機関の情報提供ケースとして確定するプロセス
第6章 研究4 産婦人科病院・診療所の看護職者が「気になる親子」の情報を提供してから他機関との連携が発展するプロセスおよび「連携」の発展過程の検討
第7章 理論を活用した教育プログラムの開発・実施と参加者の反応―理論の実践的応用―
第8章 本研究を通じたM-GTAの分析解説


著者略歴
唐田順子(からた のりこ)
山口県立大学看護栄養学部看護学科 教授。
日本赤十字社医療センター周産期病棟にて助産師として勤務。
東京都立看護専門学校専任教員,西武文理大学,国立看護大学校を経て現職。
M-GTA研究会世話人・スーパーバイザー。
修士(社会学)(東洋大学大学),博士(看護学)(聖隷クリストファー大学)。


はじめに
本書は日本看護研究学会から発表された『産科医療機関の看護職者が「気になる親子」への気づきから他機関との連携が発展するプロセス』(唐田ら,2014~2019)の4本の論文を中心に,研究の始まりから理論の実践的応用に至るまでをまとめたものである。まだ虐待が発生していない段階で女性や家族と出会い,妊娠・出産・子育てのスタートを支援する助産師・看護師(以下,看護職者)は,子ども虐待の「予防」の一端を担える専門職であるといえる。本書の内容が現在,産科医療機関の現場で日々奮闘されている,「気になる親子」に遭遇される看護職者の参考に少しでもなれば幸いである。また,これからM-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)を用いて分析を試みたいと考えておられる方々に向け,私が行った分析の手順の軌跡をたどれるよう,私なりのM-GTAの解釈についても最終章にまとめた。参考にしていただけたら幸いである。

なぜ,この研究に取り組もうと思ったのか
子ども虐待の死亡事例は0歳の乳児が最も多いことをご存じだろうか。子育てをスタートしたばかりの家庭に,いったい何が起こっているのだろうか。妊娠・出産の過程で何かサインはなかったのだろうか,乳児の虐待死亡を予防することはできないのだろうかと,助産師である筆者はこう考えていた。
先行研究を検索しても,子ども虐待におけるリスク要因の抽出(小林,1997;下泉ら,1997;松井と谷村,2000;齋藤,2001)や発見のためのアセスメント(チェック)シートの作成(佐藤,2008),乳幼児健診における支援システムの構築等の報告(都築,2009;山崎,2016)が保健機関を中心になされていたが,産科医療機関における研究は極めて少ない状況であった。
妊娠・出産・子育てを支援する看護職者が乳幼児虐待発生予防に力を発揮するための基礎研究として,産科医療機関において看護職者はどのように「気になる親子」に気づき,他機関とどのように連携を発展させているのかを明らかにしたいと,この研究に取り組んだ。

本書の構成
第1章は,研究の背景と目的・研究方法の選択ついて述べる。
第2章は研究の枠組みについて述べる。分析テーマ・分析焦点者の設定,本研究における「研究する人間」,用語の定義について説明する。
第3章・4章は総合病院に勤務する看護職者を対象とした研究結果を述べる。
第3章は,プロセスの前半『産科医療施設(総合病院)の看護職者が「気になる親子」を他機関への情報提供ケースとして確定するプロセス』の研究結果を示す。
第4章は,プロセスの後半『産科医療施設(総合病院)の看護職者が「気になる親子」の情報を提供してから他機関との連携が発展するプロセス』の研究結果について述べる。同じデータを用い,同じ分析焦点者であるが,分析テーマのみが異なるという分析において,どのような点に留意したのかについても説明する。
第5章・6章は産婦人科病院・診療所に勤務する看護職者を対象とした研究結果を述べる。第5章はプロセスの前半部分,第6章はプロセスの後半部分の結果である。データ分析においては第2章・3章と分析テーマは同じだが,分析データと分析焦点者が異なる。分析の際,留意した点について説明する。また,第2・3章の結果と比較し,差異の認められた産婦人科病院・診療所の特徴的な結果を中心に述べる。第6章の最後に,総合病院と産婦人科病院・診療所の結果の共通性に注目し,産科医療機関としての共通プロセスについて示している。その後,連携の発展過程を保健医療福祉領域における「連携」の先行研究と比較し検討している。
第7章は,理論の実践的応用として,理論を応用した教育プログラムの開発と有用性の検証についての研究結果を述べる。M-GTAで生成した理論を応用してどのように教育プログラムを開発したのか,それをどのように研修として計画したのか,その研修を実践して効果はあったのかについて述べる。
最終章である第8章は,本研究を通じたM-GTAの分析解説を行う。本書に掲載した4つの研究においてM-GTAを用いて分析を行った筆者の躓きや,M-GTA研究会におけるスーパーバイザーの経験も含め,M-GTAの分析を行う人に向け解説する。分析テーマ,分析焦点者の設定をはじめ,3つの分析ワークシートを例示し,理論的メモの記入方法,定義の仕方,概念名の命名方法等を説明する。結果図・ストーリーラインの生成方法,単独概念のサブカテゴリー・カテゴリー化,対極例の示し方にも言及している。M-GTAの分析に関心があり具体的な分析方法を知りたい方は,ぜひ参考にしていただきたい。

本書の研究はJSPS科研費JP24593458「産科医療施設における「気になる親子」の連携のプロセス構造と医療・保健の連携促進方略―乳児虐待の発生予防をめざして―」,JP15K11680「子ども虐待の発生予防を目指した産科医療機関の看護職者に対する教育プログラムの開発」,JP18K10457「乳児虐待の予防を目指した産科医療機関の看護職者向け教育プログラムの有用性の検証」の助成を受けて行ったものである。
本書の出典論文は以下の4本である。

唐田順子,市江和子,濱松加寸子(2014).産科医療施設(総合病院)の看護職者が「気になる親子」を他機関への情報提供ケースとして確定するプロセス―乳幼児虐待の発生予防を目指して.日本看護研究学会雑誌,37 (2), 49-61.
唐田順子,市江和子,濱松加寸子(2015).産科医療施設(総合病院)の看護職者が「気になる親子」の情報を提供してから他機関との連携が発展するプロセス―乳幼児虐待の発生予防を目指して.日本看護研究学会雑誌,38 (5), 1-12.
唐田順子,市江和子,濱松加寸子,山田和子(2019).産婦人科病院・診療所の助産師が「気になる親子」を他機関への情報提供ケースとして確定するプロセス―子ども虐待の発生予防を目指して(第1報).日本看護研究学会雑誌,42 (1), 75-85.
唐田順子,市江和子,濱松加寸子,山田和子(2019).産婦人科病院・診療所の助産師が「気になる親子」の情報を提供してから他機関との連携が発展するプロセス―子ども虐待の発生予防を目指して(第2報).日本看護研究学会雑誌,42 (2), 219-230.

2014年に発表した論文は幸いにも,平成26(2014)年度日本看護研究学会学会賞を受賞することができた。
上記の4本の論文は,2013年度聖隷クリストファー大学大学院保健科学研究科博士論文「産科医療機関に勤務する助産師の乳幼児虐待予防に向けた連携のプロセス」を加筆・修正したものである。


 

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