図解 ケースで学ぶ家族療法 システムとナラティヴの見立てと介入

(徳島大学大学院創成科学研究科)横谷謙次著
2,700円(+税) 四六判 並製 272頁 C3011 ISBN978-4-86616-155-6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

システムズアプローチとナラティヴアプローチを使った
家族療法の基本が身につく

本書は,カップルや家族,グループへのセラピーを様々な心理的相談事例を通して学ぶ,家族療法の入門書です。「虐待」「統合失調症」「抑うつ」「乳がん」「薬物依存症」「ADHD児の破壊的行動」など様々な架空事例を題材に,見立てからエビデンスのある支援モデルの適用までを,設問に答えながら学んでいける本となっています。
複数の来談者への合同面接では個人面接よりも複雑なコミュニケーションパターンが現れやすく,支援や介入の糸口をどこに求めたらよいか悩むセラピストも多いことでしょう。本書では,カップルや家族,グループの間で展開されている人間関係や悪循環を図にして見立て,そこにどんなシステムが成立していてどんなナラティヴが力を持っているか,どんな資源があるのかを整理し,それをもとにどう働きかけたらよいかを学ぶことができます。
これから家族療法家を目指す初学者にも,新たにカップルや家族,グループへの面接に取り組みたいセラピストにも最適の1冊です。


目次
第1部 基礎概念編
第1章 家族療法の基礎概念

第2部 保護者面接編
第2章 虐待する保護者
第3章 統合失調症の保護者
第4章 保護者面接の制約と対処法
コラム1 ケースフォーミュレーションの限界

第3部 カップルセラピー編
第5章 乳がんの妻とその配偶者
第6章 抑うつの夫とその配偶者
第7章 カップルセラピーの制約とその対処法
コラム2 システムズアプローチの限界

第4部 グループセラピー編
第8章 薬物依存症の青年とその周囲
第9章 ADHD児の破壊的行動とその周囲
第10章 グループセラピーの制約とその対処法
コラム3 ナラティヴアプローチの限界


著者紹介
横谷謙次(よこたに けんじ)
徳島大学大学院創成科学研究科臨床心理学専攻・准教授。公認心理師・臨床心理士。
2001年に東北大学教育学部に入学,2011年に東北大学大学院教育学研究科博士後期課程修了(心理学博士・総長賞受賞)。チューリッヒ大学大学院心理学科客員研究員などを経て,2019年より現職。日本ブリーフセラピー協会より,薬物依存症者及び性犯罪加害者に関する治療についてそれぞれ論文賞受賞(2014年,2020年)。情報処理技術と人間行動に関する国際的な学術雑誌(Computers in human behavior)などに論文多数。最近は,計算社会科学者と共同で,ヴァーチャルコミュニティ上での精神疾患の予防を研究している。また,ロボット工学者や神経科学者と協働して,精神疾患に対するロボットを介した治療を行い,その効果を検証すると共に治療効果の背景となる神経基盤の解明にも挑んでいる。
主な著書:『精神の情報工学―心理学×ITでどんな未来を創造できるか』(単著,2021,遠見書房)


まえがき

本書は,家族の心理的問題への対応方法(以下,家族療法)をエビデンスに基づいて説明しています。そのため,家族の心理的問題に対応している現役の治療者はもちろん,将来こういった治療者を目指している大学生及び大学院生が本書の読者対象になります。また,こういった治療に直接関わらなくても,「虐待」「統合失調症」「抑うつ」「乳がん」「薬物依存症」「ADHD児の破壊的行動」といった問題に対する家族療法アプローチに興味のある方にも,治療の概略を示したものとして本書はお読みいただけます。用語解説もありますので,多くの方にとって理解しやすいものと考えております。
一方,本書は心理・社会的アプローチを主眼に説明していますので,生理的アプローチはほとんど説明していません。また家族の心理的問題は扱いますが,家族の経済的・法的問題は扱いません。そのため,生理的アプローチもしくは家族の経済的・法的問題のみに興味のある方は本書の対象外となります。また,本書は家族療法の専門用語をできるだけ使わないようにし,理論も事例に必要なもののみに限定しました。そのため,家族療法の専門用語や理論は全く網羅していませんので,各種の試験対策としては,本書は不向きです。家族療法の専門用語や理論が網羅的に記された良書は日本でも多くありますので[1][2],そちらを参考にしてください。
さて,本書の構成ですが,基礎概念編に基づいて,保護者面接,カップルセラピー及びグループセラピーの技法が説明されますので(図0-1),まずは基礎概念編を読まれた後に興味のある箇所を読んでいただければ幸いです。
また,1,2,3,5章は特定の家族の心理的問題に関する事例を扱っており,1節でその問題に対する危険因子と保護因子をモデルで説明し,2節でそのモデルを事例に適用して危険因子と保護因子を特定し,治療仮説を作ります。3節ではシステムの観点から治療仮説を検証するアプローチを説明し,4節で事例に対してそのアプローチを適用します。同様に,5節ではナラティヴの観点から治療仮説を検証するアプローチを説明し,6節で事例に対してそのアプローチを適用します。7節では,その事例に関連する研究と発展課題が示されています。そのため,各節はそれぞれ順番通りに読んでいただければ幸いです。
6,8,9章は特定の心理的問題を扱っていますが,介護負担システムとナラティヴ,薬物使用システムとナラティヴ,破壊的行動システムとナラティヴという名前の通り,それぞれの問題に固有のシステムとナラティヴを扱っていますので,1,2,3,5章でシステムズアプローチとナラティヴアプローチを理解してから読んでいただけると,内容が理解しやすいと思います。
さらに,4,7,10章では保護者面接,カップルセラピー及びグループセラピーの面接構造に基づいた制約とその対応方法を示しました。治療者が個人面接の枠組みで家族療法を実施するとすぐに失敗しますので,その失敗の要因と対処法を説明しています。さらに,コラム1,2,3では,本書が説明しているケースフォーミュレーション,システムズアプローチ及びナラティヴアプローチの限界を述べ,これらの方法論にもいくつかの限界があることを明示しています。
なお,本書には各章ごとに事例に即した問題とその回答例がありますが,治療者及び治療者を目指す方は自力で問題を解いた後に回答例を確認するようにしてください。というのも実際の治療場面では,回答例を見て理解する力ではなく,自力で問題を解く力が求められるからです。筆者が大学院修士1・2年生の講義で用いる場合は,1章に1. 5回分(135分)使い,学部3年生の講義で用いる場合は1章に3回分(270分)使っていますので,読書の際の参考にしていただければ幸いです。また,本文中の下線の引かれたワードは巻末の用語解説のページに簡単な説明を掲載していますので,ご確認ください。
最後になりましたが,本書は沢山の方々に協力いただきました。まず,2章と5章については徳島大学の内海千種先生と福森崇貴先生から専門的なアドバイスをそれぞれ頂戴しました。また,1章から10章までについて,徳島大学の横谷謙次研究室のメンバー(前田詞緒さん,藤田さくらさん,村松亮弥さん)から学生の観点に基づく有益なアドバイスを頂戴しました。さらに全ての事例は架空事例ですが,ほとんどは筆者の治療経験をベースにしており,来談者の方々からは,有形・無形を問わず,有益な知見を沢山頂戴しました。遠見書房の駒形大介様には,本書を出版する機会を頂戴しました。これらの関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。

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